蜜蝋(みつろう)
蜜蝋 一名 黄蜡
是、黄蝋といふ物にて、即 蜂の□なり。其□ を絞りたる滓なり。
蜜より蝋を取るには、生蜜を采たるに、後の蜂の巣を鍋に入れ、水にて𤋎じ沸たる時、別の器に冷水を盛りて、其上に籃を置き、かの𤋎じたるを移せば、滓は籃に留りて、蝋は下の器の水面に浮かぶ。夫を又、陶器に入れて、重湯とすれば、自然に結びて蝋となるなり。
又、熟蜜をとる時、鍋にて沸せば、蜜は上に浮び、蝋は中に在、脚は底にあり。是を采り、冷しても自然に黄蝋に結ぶ。
※ □は、月+日+斗という漢字のように見えます。
會津蝋
本草 蟲白蝋といひて、奥州会津に採る蝋なり。是は、イボクラヒといふ虫を畜なふて、水蝋樹といふ木の上に放せば、自然に枝の間に 蝋を生して、至て色白し。
其虫は奥州のみありて、他国になし。故に、形を詳らかにせず。今、他国に白蝋といふものは、漆の樹などの蝋を暴したる白色なり。また、薬店にて 外療 に用ゆる白蝋といふも、蜜蝋の暴したるにて、是又 真にあらず。
水蝋樹といふ木は処ゝに多し。葉は忍冬に似て小なり。夏は、枝の末ことに小白花を開らき、花の後、實を生ず。熟して色黒く 鼡の屎のごとし。冬は葉おつる。又、此蝋を刀剣に塗れば、久しくして錆を生ぜず。又、疣に貼れば 自から落 故に、イホオトシの名あり。今、蝋屋に售る會津蝋といふ物 真偽おぼつかなし。
※ 「本草」は、明の李時珍によって編纂された本草学書。『本草綱目』。
江戸時代に貝原益軒が編纂した『大和本草』の「蜜蜂」に、李時珍の『本草綱目』からの引用が見られます。
※ 「蟲白蝋」は、イボタノキに寄生するイボタロウムシの幼虫が分泌した蝋を加熱溶解して、冷水の中で凝固させたもの。虫白蝋、虫蝋。
※ 「イボクラヒ」は、イボタロウカタカイガラムシ(イボタロウカイガラムシ、イボタロウムシ)のこと。
※ 「水蝋樹」「水蝋樹」は、イボタノキ(モクセイ科の半落葉低木)のこと。
※ 「忍冬」は、スイカズラ(スイカズラ科の常緑つる性木本)のこと。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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