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百人女郎品定(下)


三ケ津  色里の始

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定

ケ津がのつ  色里いろざとはじまり

に、傾国けいこく けいせい  など、にくてい口のやうにいひなせども、みなもとふかく、理義りぎはあまねくる所、天竺てんぢく震旦しんだん我朝わがてうとてもさら也。殊更ことさら吾国わがくに天神てんじん地祇ぢぎより神風かみかぜみちにみちたるくに風情ふぜい、土にやわらぐ日のもと風俗ふうぞくとかや。

※ 「傾国けいこく」は、ここでは、遊女のこと。
※ 「けいせい」は、傾城けいせい。ここでは、 遊女のこと。
※ 「にくてい口」は、憎体口にくていぐち。憎々しい物言いのこと。
※ 「天竺てんじく」は、インドの古称。
※ 「震旦しんだん」は、古代中国の異称。古代インドで中国(秦国の土地)をさした語の漢字表現。
※ 「天神てんじん」は、ここでは天の神のこと。あまつかみ。
※ 「地祇ぢぎ」は、地の神のこと。国つ神。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定

されば、京江戸大坂、三ケの津を、このみち上品じやうぼんさだむるもゆへあることぞかし。

第一、京 島原しまばらは、天正てんしやうのこのかみ、はら三郎左衛門、はやし又市郎といふ浪人らうにん許命きよめいせられて、すなはち柳馬場やなぎのばばでうの北に傾城町けいせいまちひらきし、のちに、六でう西洞院にしのとうゐんの東に移され、これよりはるかのち、寛永年中ねんぢうに、今の朱雀野しゆじやかのに所をかへられしが、むかしのちなみをもつて、今に西にししん屋敷やしきやなぎ町といひつたふるなり。

このときの原氏はらうぢは、今の島原しまばらかみの町西南かど桔梗ききやう屋八右衛門が也。又、林氏はやしうぢは、今のしもの町西南角、扇屋八郎左衛門屋敷やしき、この後也。林氏はやしうぢは、寛文年中ねんぢうに大坂に引越ひきこし、今の大坂新町扇屋、是なり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定

江戸は、そのかみは田うぢかの土地とちをひらかれてみぎりに御赦免しやめんにて何某なにがしおほかりしが、わけて山下やましたうぢなど、此道このみち也。

難波津なにはづ新町しんまちは、むかしより繁華はんくは大湊おほみなとにして、諸方しよはう色町いろまちおほかりしが、寛永のすゑ、正保のはじめつかた、ひとつ所にあつめられて、四筋よすぢの町となりぬ。すははち木村きむらや又二郎町(瓢箪ひようたん町これなり)、佐渡島さどじまの勘右衛門町、四郎兵衛町、金右衛門町、吉原町 これなり。其に奉りしより、女工ぢよこうのながきいとなみ也。

君がは いはほと成て、ながれもきよき白川石しらかはいし矢背やせ大原おはらしば黒木くろきたきゞに花をおりそへて、御代みよさかりや秋はまた、五こくりうばいして、百姓ひやくしやうの女はうちおさむるめでたさ、これぞ、上くわんぢくならじ。

※ 参考:『三都花街めぐり(新町)』『新町遊廓沿革』『嬉遊笑覧 下』『大阪府全志 巻之2

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定

外、六十六国に色里いろざと数多あまたありといへども、およそ けいせい町とせうする所のものは、あらまし、泉州せんしうさかい乳守ちもり ならびに 高洲たかす和州わしうの奈良に木辻きつじ鳴川なるかわ伏見ふしみ撞木しゆもく泥町どろまち大津おほつにしばやまち、越前ゑちぜん三國みくに敦賀つるがの両町、西国さいこくすぢにおいては、播磨はりまむろ同国どうこく鶉野うづらの姫路ひめぢや又左衛門町、備後びんごとも 、同じく、たゞのうみ、備中びつちう宮中みやうち安芸あき宮島みやじまの新町、しもせきいなり町、長崎ながさき丸山まるやま町。

此外、国ゝ所ゝに遊女ゆふぢよおほしといへども、みな色里いろざとなどゝこばして、さま/\の品位しなくらいあまたなれども、土地とちのかはりめ、風俗ふうぞくいろ/\あれば、しばらくこゝりやくす。

※ 「こばして」は、知ったかぶりをして、気取った言い方をして。こばす。

〔京島原〕太夫  新ざう  引舟  かぶろ  やりて  局女郎

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
京島原太夫 新ざう
かぶろ
引舟ひきふね やりて
つぼね女郎 見てゐる

※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『一目千軒』「太夫之事」「天神之事并大天神の事」「新艘しんぞうの事」「禿の事并二人禿の事」「引舟の事」「局之事」「遣手の事

大天神  小天神  鹿恋  かぶろ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
大天神 あげやくはしや
小天神
鹿恋かこい
かぶろ

※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『一目千軒』「天神之事并大天神の事」「鹿恋

くつわの女房 かぶろ かこいはし身仕廻

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
くつわの女房
かぶろだね
 かこいはし身仕廻

〔江戸よし原さん谷〕太夫  新ざう  かぶろ  たいこ女郎  あげやの女房

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
太夫 新ざう
あげやの女房 進上物
かぶろ
たいこ女郎 文かく

※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『一目千軒』「太夫之事」「天神之事并大天神の事」「新艘しんぞうの事」「禿の事并二人禿の事」「牽頭たいこ女郎の事并芸子の事

うめちや女郎  さんちや女郎

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
さんちや女郎

※ 「さんちや女郎」は、散茶女郎。江戸新吉原の遊女の格付けのひとつで、太夫、格子に次ぐもの。

うめちや女郎

※ 「うめちや女郎」は、梅茶女郎、埋茶女郎。江戸新吉原の遊女の格付けのひとつで、太夫、格子、散茶に次ぐもの。

〔大坂新町〕太夫  天神  やりて  かぶろ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
太夫 天神
かぶろ
やりて
七夕の立花

※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『一目千軒』「太夫之事」「天神之事并大天神の事」「禿の事并二人禿の事」「遣手の事

局女郎  塩の位  影の位

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
つぼね女郎 しほくらい
かげくらい 月のくらい

てかけ奉公人  きも入かゝ  月かこい物

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
てかけ奉公人 きも入かゝ

※ 「てかけ奉公人」は、めかけ奉公人。
※ 「きも入かゝ」は、肝入嬶きもいりかか
※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『お大名の話 8版

月かこい物

風呂女  くわしや  宿のかゝ  つり物女

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
風呂ふろ
くわしや
つり物女 やどのかゝ

茶屋女  娘分  くはしや  ふたせ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
ちや屋女
娘分むすめぶん

※ 「娘分むすめぶん」は、遊里で娘として預かって勤めに出す芸妓のこと。

くはしや
ふたせ

※ 「ふたせ」は、二瀬ふたせ。下女とめかけ など、ふたつの役を勤める雇い女のこと。

しば物の札茶屋  たうふ茶屋  水茶や

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
しば物のふだぢや屋 いづみや
たうふ茶屋
水茶や

奉公人宿かゝ  ほうこう人の女

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
柿かふ
おろし割はこ いろ/\
奉公人宿かゝ ほうこう人の女ども


歌びくに  はたごや出女

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
うたびくに
はたごや出女でおんな

大ゆな  小湯女  大原神子  おちやない

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
大ゆな 小湯女ゆな

湯女ゆな
●王じやうわうそうなやまれしに、巫山ふさん神女しんによ温泉をんせんをしつらいてよくせしより、温泉の湯女ゆなははじまりしとかや。其外、品ゝしな/\こゝりやくす。

大原神子 おちやない

※ 「おちやない」は、落買おちがいのこと。抜けた髪の毛を買い集めて、かもじ(髪を結うとき添える毛)を作る女性のこと。
※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『日本大辞書 第3巻』「おちやない

〔さん所〕取上ばゞ  お里のこしもと

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
取上とりあげばゞ
お里のこしもと

時宗の室 

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定

時宗室じしうのしつ

一遍いつぺん上人、もとは河野の道直みちなをとて、北条ほうでうのとき●の家にて武勇ぶゆうの人なりしが、あるとき、本妻ほんさいめかけと同じくして有しに、二人ふたり黒髪くろかみへびと成てあらそふを見て、発心ほつしんし、由良ゆら法灯ほうとう禅師ぜんじほうをつぎ給ふ。

時宗ときむね後世ごせのため、わが宗門しうもんに付て給はれとののぞみによつて、浄土じやうど時宗じしうをひろめ給ふ。二人ふたりの女もあまと成て、同じく修行しゆぎやうす。此れいにや妻帯さいたひと也。

宗室じしうのしつ

あづさ神子

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
あづさ神子みこ うらの鏡がいくたりござるぞ

※ 「あづさ神子みこ」は、梓巫女あずさみこ梓弓あずさゆみつるを打ち鳴らして神霊・生き霊・死霊などを呼び寄せ、自分の身にのりうつらせて託宣をする巫女のこと。

よう よりやれ

わたくり

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
よいひよりの
わたくり

※ 「わたくり」は、綿繰わたくり。 綿花を綿繰り車にかけて、種子を取り除く作業こと。

そうめんの粉引

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
そうめんの粉引こひき
歌がおもしろい

夜の水茶屋 惣嫁 夜鷹

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百人女郎品定
よるの水茶屋 よしのや
惣嫁そうか 夜鷹

惣嫁そうか
いのしゝもふすゐといえばやさしく、いしまくらやこけむしろ、いもせををしむ初夜のかね。かさねぶとんや、つり夜着よぎの、はやきぬ/\のわかれをしむたのしみも、たゞ一心いつしんうちなれや。かみおよばぬ雲の上下かみしも万民ばんみんにいたるまで、二柱ふたばしら子ゝしし孫ゝそんぞんいく万歳ばんぜいの春ぞたのしき

※ 「ふすゐ」は、臥猪ふすい。ここでは「臥猪ふすいの床」をいっていると思われます。猪が茅・葦・枯草などを敷いて寝ているところ。また、人が野宿するためにそれをまねて作ったもののこと。
※ 「つり夜着」は、釣夜着つりよぎ夜具やぐの重さを軽減させるために、掛け布団の中央に金輪をつけて紐で天井から吊るしたもの。
※ 「きぬ/\のわかれ」は、後朝きぬぎぬの別れ。男女が共寝をして過ごした翌朝の別れのこと。
※ 「夜鷹」は、江戸で、夜間に道ばたで客を引いた私娼のこと。

江戸時代、私娼のことを、江戸では夜鷹、京都では辻君、大坂では惣嫁そうかと呼んでいたそうです。

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※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『一目千軒』『燕石十種 第3


筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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