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石品(いしのしな)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

いし山骨やまのほねなり。物理論ぶつりろんいふ土精どせいいしとなるいしは、たねなり。いしせうずるは、人の筋絡きんらく爪牙そうげのごとし云々。

されども、その 石質せきしつにおゐては、萬國ばんこく萬山ばんさんものこと/\ひとしからず。これ風土ふうど変更へんこうなれば、すなはちを●つてせうずるごとしかり。

又、草木そうもく魚介ぎよかいみなよくくわして、いしとなれり。本草ほんざう松化石せうくわせき宋書さうしよ柏化石はくくわせき稗史ひし竹化石ちくくわせきあり。代醉編たいすいへん陽泉夫やうせんふ餘山よさんきたにある清流せいりう数十歩すじつぽ草木そうもくしづめて、みな くわして石となる。

又、イタリヤのうち一国いつこく一異泉いちいせんあり。いづれものといふことなく、その うちおつれば、半月はんげつにして、便すなはち、石皮せきひせうじ、その ものつゝむ

また歐暹巴わうらつぱ西国にしくに一湖いつこり。うちさしはさんで、つち一叚化いちたんくわしててつとなる。水中すいちうは、一叚化いちたんくわしていしとなるといへり。

本朝ほんてうまた、かゝるところおゝく、およそ 寒國かんごく海濱かいひん湖涯こがひ、いづれもしかり。すべて器物きぶつとう化石くわせきその ところになるとるべし。

またいしむちうちて、あめふらし、あめをやむる陰陽石いんやうせきありて、日本につほんにても寶亀ほうき七年、仁和にんな元年、及び、東鑑あづまかゞみとうにもその れいえたり。江州がうしう石山いしやまは、本草ほんぞうにいへる陽起石やうきせきにて、天下てんか奇巌きがんたり。


※ 「物理論ぶつりろん」は、三国・晋の楊泉ようせんによる『物理論』のことと思われます。
※ 「本草ほんざう」は、明の李時珍によって編纂された本草学書。『本草ほんぞう綱目こうもく』。
※ 「宋書さうしよ」は、南朝宋の歴史書。『宋書そうじょ』。
※ 「稗史ひし」は、稗官ひかんが民間から説話を集めて記録した歴史書。『稗史はいし』。
※ 「代醉編たいすいへん」は、明の張鼎思ちょうていしによって編纂された『琅邪ろうや代酔編だいすいへん』。
※ 「江州がうしう」は、近江国おうみのくにのこと。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

又、日本記にほんき雄略ゆうりやく皇女こうによ 伊勢いせ斎宮さいぐうにたゝせたまひしに、邪陰じやいんおんうたがひによりて、皇女くわうによ腹中ふくちうひらかせたまひしにものありてみずのごとし。水中すいちういしありといふことみゆ。これ医書いしよに云、石■せつか [疒+叚] なるべし。しかれば、ものこりなることにおいては一なり。

品類ひんるいにおゐては、鍾乳石しやうにうせき慈石じしやく與石よせき滑石くわつせき礬石はんせき消石せうせき方解石はうかいせき寒水石かんすいせき浮石かるいしその竒石きせき怪石くわいせき動物どうぶつなどは、さき近江あふみひと輯作しうさくせる雲根志うんこんしつきぬれば、ことごとべんするにおよばず。

イシといふ和訓わくんハシといふが、本語ほんごにてシマリツム。ぞくに、シツカリなどのごとく、ものさだまりたるのなり。

イハとは石歯いはなり。いはか●ならべり。かならず大石たいせきにて歯牙はきばのごとく徤利するときなり。

イハホとは、かんて、詩經しきやうこれいし巌々がんがんといひて、おなじく尖利するとくたちたるなり。萬葉まんようには、石穂いはほとかきて、いづるのなり。又、いはほろともいへり。かたがたてんじてすべてを、いしとも、いはとも、いはほともつうじていへり。

日本にほんにて、器用きようつくものすくなからず。就中なかんづく五畿内ごきない西國にさんするがうちに、御影石みかげいし立山石たつやまいし豊島石てしまいしとうは、材用さいようほどこし、人用にんようゑきして翫物くわんぶつにあらず。ゆへに、そのさんつゝでうしもあげげて、その余をりやくす。

和泉石い○みいしいろかならず青く、石理いしめこまかにして、牌文ひもんとうこくす。また阿州あしうより近年きんねんいだすものこれるいす。そのいしねぶかわて、いろみどり石形いしのかたち くぎ [厂+丁] たるがごとし。石質せきしつかたからず。また城州じや○しうにては、鞍馬石くらまいし加茂川石かもがはいし清閑寺石せいがんじいしとうこれ庭中ていちう飛石とびいし捨石すていしおきて、みづたもたせ、濡色ぬれいろせうし、すべ貴人きにん茶客さかく翫物くわんもつそなふ。


※ 「雲根志うんこんし」は、江戸時代中期、木内石亭が著した石の博物誌。
※ 「詩經しきやう」は、詩経。中国最古の詩集で、五経の一つ。
※ 「これいし巌々がんがん」は、「節たる彼の南山、維石巌々たり、赫々たる師尹、民具に爾を瞻と」という詩の一節で、人の上に立つ者は慎まねばならないという教え。参考:国立国会図書館デジタルコレクション『東洋倫理学史 上巻
※ 「阿州あしう」は、阿波国あわのくにのこと。
※ 「城州じやうしう」は、山城国やましろのくに のこと。



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