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【梅園魚品図正】(1) 鯉魚

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『梅園魚品図正 巻1

魚類之部

 ノ類 其數甚多 而 諸州有 異品 不可  竆書 。形状 亦 不 同魚別不   ヲ 國俗 ノ 称品物之。各字 リ スル者多。而  ヲル 正者 就中 難 書乎。

 ハ 『文孚集略』云 和名 宇乎。俗伝、伊遠。水 ニ スル ヲ捻名也。


<本草綱目第四十四巻>

鯉 コヒ

『和名抄』 マゴヒ 一名

■ [■は木+犀 ]龍 『嫏嬛記』
六々魚 『事物異名』 錦鱗 同 龍公子 同 飛魚 同 赤鯶公 同
李長史 『名物法言』 赤鯶公 同
魚主  『事物紺珠』 金沢 同 季本 同
文鯉  『行厨集』  赤鯶 同

七巻食経
 鯉魚 和名 古比
 野王 ニ鮜 『説文』云 𩸄 『爾雅』云 ■ [■は魚+度]
 皆、鯉魚也。

※ 「本草綱目第四十四巻」に掲載されている「鯉」の挿絵。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『本草綱目卷


『綱目釈名時珍』曰
 鯉鱗有 十字文理  ク  ト。雖 困死 鱗不 反白 同。『集解蘓頌』曰、處々有 之。其 □ 鱗一道従頭   ル  ニ 大小 三十六鱗毎 鱗有 小黒点 慛之最佳故為 食品上 ト 又 弘景 曰 鯉為  ノ ト 形既可 愛。又、能神変乃至飛 越江 ヲ 所以仙人琴高 スル 之也。又 曰、山水中有 此不  食。宗 □ 日、 ハ 至陰之物 其鱗三十六鱗 陰極則陽  ス等、古人 フ 鱗 而己 有 故 哉。雖 然、彦藩重啓、之如解。其 鱗三十六 ならざる者 及 毎鱗小黒点なき者多し。鯉に數種なきといえども三種ありと、予 友人漁夫 語 之。不  之。

※ 「而己」は、のみ。
※ 「雖 然」は、けれども。雖然すいぜん
※ 「彦藩重啓」は、江戸時代の彦根藩士、藤居ふじい重啓しげひろ。『湖中こちゅう産物さんぶつ図証ずしょう』の著者。
※ 「予」は、ここでは我の意。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『梅園魚品図正 巻1
鯉魚
乙未秋七月朔日於 武江尾久川得之真写


『列仙傅』曰
 其 琴高子英二 ノ  シし、鯉は 赤鯉ひごいにして、尋常つねの鯉魚にあらず。赤鯉圖上に集説す。鯉は、食品の第一とす。江戸にて、江戸川、尾久川、下総の利根川、荒川の産を第一品とす。近州 琵琶湖中 竹生嶋邉の鯉 三十六鱗なるもの多しと云り。『事物異名』に所 謂の 六ゝ魚、是也。鯉を取るに數品あり。

やな 曲梁大やな つぼ [■は吅+亞+田] うえ もしとり [■は魚+八] ふしづけ 竪網かいど 等あり

※ 「琵琶湖中竹生嶋」は、琵琶湖の北部に浮かぶ竹生島のこと。
※ 「三十六鱗」は、体側に うろこ が三十六枚(6×6=36)並ぶことからつけられた鯉の別名。三十六さんじゅうろくりん。また、六六魚ろくろくぎょとも呼ばれます。


『詩経邶風』曰
 母  クフ  ニ    ニ 傅曰、涅 は 魚梁|笱 ハ 以捕  ヲ也。『和漢 □  ニ漁者猟器 今皆同也。 


『湖中産物圖證』曰
 鯉に雄唯を分ち載未 其形雄に同じ。只、まご卵を 孕む者を雌とす。江州の漁者、孕鯉を 只 はらみと呼て、賣ひさぐ。春月暖気に至り、大雨の時、山谷の流 赤泥の濁水となり下る時、諸々の川口へ 鯉魚上り到り、泥濁の水を呑て卵を産す。其後をへりがらと云也。

※ 「江州」は、近江国おうみのくに


鯉の兒

乳鯉 コゴヒ 江州  は子かえり 江戸

『證類本草』曰
 赤 ノ條五尺之鯉 □  一寸之鯉 大小雖  ト ノ ト。又、『綱目集解蘓頌』云、其 □ 鱗一道従 𩒐至 尾無 大小 三十六鱗毎鱗有 小黒点 云々。然ども必毎 其数 合ざるもの多く、黒点なきもの多し。其三十六鱗のものは別種也。

房州の地に絶て鯉なし。鯉は、波臣の冠たる者なれば、一州一郡充ざる地には産せず。想に、彼は郡の多少に抱らんや。奥州の地、亦 絶て鯉なしと。又、甲州も相同じ。陸奥、地所に金を生ず。房甲 又然り。凡て物の愛情知べし。諸魚中 □ 鯉魚 而己、金の液臭を忌と云。佐渡地は、國巡難海なれば最然り。


※ 「房州」は、安房国あわのくに
※ 「波臣はしん」は、ここでは魚類のこと。
※「奥州」は、陸奥国むつのくに
※ 「房甲」は、房州と甲州のこと。



筆者注 『梅園魚品図正』は、江戸時代後期の博物家、毛利梅園による魚図鑑です。説明文書は漢文体が中心のためパソコンで表示できない漢字が多く、かつ 漢文の返り点と送りがあります。読みやすさを考え、パソコンで表示できない漢字は □ とし(但し、名称の場合はできるだけ [■は〇+〇] の形で表示)、漢文の返り点と送りはカタカナと漢数字、送り仮名はひらがなで記載するようにしました。

この作品に引用されている文献については、こちらの note を参照してください。 → 【梅園魚品図正】文献まとめ

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