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【人相学】『武者鑑』平忠盛/祇園女御/菖蒲前/源三位頼政

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『武者鑑 一名人相合 南伝二


平忠盛たひらのたゞもり
忠盛たゞもりは、じやう 平太へいだ 貞盛さだもり六男ろくなん 正盛まさもり嫡子ちやくしなり。かつて、白河しらかはてい祇園ぎおん女御によごかたへ  しば/\  かよはせ給ふに、いつとても、忠盛たゞもり 供奉ぐぶをなすに、ある 雨夜あまよ祇園ぎおん神前しんぜん異形いぎやうのものあり。ひとみな おそれすに、忠盛たゞもり 不審ふしんして、一人 ゆいて、これとらへるに、あぶらつぎの法師ほうしなり。上皇じやうくわう 、そのゆう叡感えいかんあまりにや、かの 女御によご忠盛たゞもりたまふ。このとき女御によご懐妊くわいにんありたるが、のち出産しゆつさんあるところ男子なんしは、すなはち  清盛きよもりなり。

忠盛たゞもりは、面体めんてい下方満しもぶくらにして、ひたいずぼりたる ていなれど、たかひろく、かしらまろおほいなりしといへり。これきみ御胤おんたねわがとして、その ためわがあらはすほどの 造化しあはせ よき さうなりしといへり。

※ 「供奉ぐぶ」は、天皇の行幸などの行列に供として加わること。
※ 「あぶらつぎの法師ほうし」は、灯籠をともすために働いている法師。


祇園女御ごおんのによご
女御によごは、源仲宗みなものとのなかむね妻女さいぢよなりしが、一度ひとたび ゑめもゝこびある 絶世ぜつせ美人びじんなれば、白河しらかはていこれめさされんとて、おかせし つみなき 仲宗なかむね隠岐おきくにながして、これ祇園ぎおん女御によごめされて、寵愛りやうあい 大方おほかたならざりしが、忠盛たゞもりのかねて 恋慕れんぼなせしをしろしめして、かの 異業いぎやうあらはせし こうにとて、つまたまふ。

女御によごは、如斯かくのごとき美人びじんなれど、なみあしく かさなりて、その 音声おんせい 雌声うち●れなりし。これ良人おつとゑん うすくして、不思おもはず をつとかさなるの さうなりしとかや。

※ 「もゝこび」は、様々な媚態、あらゆるなまめかしさのこと。百媚ひゃくび
※ 「しろしめし」は、お知りになる、承知しておられるの意。知召(しろしめす)。


菖蒲前あやめのまへ
菖蒲あやめは、近衛院このえのいん官女くわんぢよなるが、古今こゝん ならかたなき 美人びじんにて、その こゝろ ゆうにやさしかりしかば、頼政よりまさつまとなりても、その むつまじきこと、鴛鴦ゑんおうのごとくなりしに、頼政よりまさ 討取うちじにのちは、伊豆いづ河内かはちといへる ところくだり、あまとなりて 後世ごせとぶらひけるとなん。

それ 美人びじんいへば、べつぜいするに 不及およばずといへど、三十二さう そろひし 美人びじんには おほなしといへり。しかし、菖蒲あやめには、二条院にでうのいん官女かんぢよ 讃岐さぬきといへる もあれば、べつもつさうありしか。いなや、是非ぜひきかざればこゝに しるさず。

※ 「鴛鴦ゑんおう」は、カモ科の水鳥、オシドリのこと。 夫婦や男女の仲睦まじい様子の喩え。鴛鴦おしどり
※ 「三十二さう」は、仏のみが備えている三十二のすぐれた身体的特徴のこと。ここでは、女性の容貌・姿形のすべての美しさの意。


げん三位ざんみ頼政よりまさ
頼政よりまさは、頼光よりみつ末流ばつりう 仲正なかまさなり。弓矢ゆみや 古実こじつ達人たつじんにて、仁安にんあん 三年五月 勅命ちよくめいによつて、大内おほうちぬゑといへる 化鳥けてうて、菖蒲あやめたまはり、雲井くもゐたかきに あげことは、みな ひとしるところなり。

そののち平家へいけおごりを にくんで、高倉たかくらみや謀叛むほんすゝたてまつ りしに、ことやぶれて 一族いちぞく 宇治うぢ平等院べうどうゐんにて 一朝いつてうしもきえるといへど、全身ぜんしん 中肉ちうしゝにして ひかもちかず 廿四まいありて、わらくちをなせしとかや。これ長命てうめいにして、あぐるの さうといへり。冝成哉むべなるかな、このとしとし 七十五さいなり。かつ和歌わか達人たつじんにて、いまなほ 頼政よりまさいへしうとて おこなはれり。

※ 「 一朝いつてうしも」は、はかなく消える朝おりた霜のこと。消えてあとかたもなくなることの喩え。あしたしも
※ 「冝成哉むべなるかな」は、いかにもそのとおりだなあ、という意。うべなるかな。



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