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ヴァサラ幕間記〜小話3

その頃のカムイ様③〜カムイ様と通常業務

 何か書類の文字が見えにくくなったな…
と机から顔を上げたカムイは、部屋がすっかり暗くなっているのがわかった。
窓の外は薄墨を引いたようで夕日の残照もない。午前中に国家事業に関する会議があり仕事ができなかったので、今日しておかなければマズい仕事だけはと思っていたが気づけばこんな時間だ。そういえば昼食もとっていない。
 会議で決まったことを実行に移すのはカムイも含む官僚とその部下だ。職域的には軍部の仕事をしていれば良いカムイではあるが、王子という立場上、王に回す程でもない懸案事項も回ってくる。上級民を招待するパーティ等の本来は王妃がするべき仕事も病身のマリアには難しいのでカムイに回って来る。

 部屋のランプを点けて回り再び机に座ると、無意識に分けていた書類に気づいた。戦闘後の地方都市の復興や研究機関の調査団の警備計画と実行。中には土地の開墾のための地域住民との折衝や長引く訴訟の仲裁など軍部の仕事ではないものもある。
 こういうのはヴァサラが得意だったんだが。
事務的に効率的に行うだけではなく繊細な人心の掌握が必要な仕事であり、カムイ自身が行うには向いていない仕事。あいつに任せておけば大丈夫という、絶対的な信頼感がある相手がいなくなったのが痛い。

 そういえばあいつ、任務がない時はちょくちょくここに来てたよな。
カムイのサインさえあれば面倒な事務処理が飛ばせる案件を持って来たり、自分が苦手な仕事をカムイの仕事と交換しに来たり、面白そうな仕事を勝手に選んで持って行ったり。来るたびに仕事と全く関係ない非常にどうでも良い話をして去って行き、絶対サボりに来ていると思っていたが。
 あれはあれで、息抜きになってたな。
 時間があれば埋めるように仕事を入れてしまう。もっと他人に任せればいいとわかっているのに、つい自分でやってしまう。
もしかして、あいつなりに気を遣ってくれてたのかもな。

 …と、ヴァサラのことをしみじみと思い出したものの。
いや、あいつ、ここの菓子食い散らかして行ってたし、何ならあいつが淹れる茶が不味すぎて俺が淹れてたな。
 おかげでヴァサラがいなくなってから、マリアから差し入れられる乙女なスイーツが溜まりに溜まって消費期限がヤバいことになっている。
 ないないない。
思いながら、カムイは、久しぶりにちょっと笑った。



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