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第二十三話

 BKDの部室を後にした星陽が、もうだるいし午後の授業サボって弥幸とどっか行きてーなどと不真面目なことを考えていると、あ、という声が聞こえた。
 声の方を振り返ると、トレーナー姿の天音がいる。
何か話しかけようとしたらしいが、星陽の隣に弥幸がいるのにちょっと遠慮するようだ。察した弥幸が「カフェテリアの方にいるから」とその場を離れると天音が駆けて来た。
「っス」
と運動部らしい挨拶をすると、廊下の端の方に誘導される。これはちょっと長くなりそうだ。
「あ。前は久重さんの手紙、ありがとうございます。あれから久重さんと…デートって言うんですか?大学で会って手紙交換したり、一緒にご飯食べたりとかしてんすけど」
ちょっと照れながら言っているが、星陽の頭の中を疑問符が通り過ぎてゆく。
 …デート…?
 大学で会って話をするのってデートかな?
「や、ちょっと恥ずかしくて、まだ全然話とかできないんっスけど」
へへっと笑う。
 …しかも話もしてないのか?会って一緒にご飯食べてるのに?
再び星陽の中を疑問が駆け巡っている中、天音の話は続いてゆく。
「もうちょっと関係を進めたいというか…話をしたり?こう…手を繋いだりとか?」
まで言ってから、ハッと星陽の方に向くと赤くなって言った。
「わ、今やらしいとか思いました?思いましたよね!ちょっとキモいですか?俺」
ピュアすぎて眩しい。
あいつああ見えてBKD同人のすげえ表紙描いてるし、色々詳しいと思うぞ。
と思った気持ちを抑え
話は普通にすればいいし手も普通に繋げばいいし、キスぐらいしてもいいと思うぞ。
と思った気持ちもグッと抑える。
星陽はもちろん、あんなことやこんなことも知っている。が。
「俺もそういうのあんま詳しくないから、ちょっと色々聞いてみるわ」
何を誰に聞くんだよというセルフ突っ込みは心をよぎったが、とりあえずそう答えた。

 天音のところから戻ってきた星陽が、チュッパチャップスで糖分を補給しながら一生懸命考えている。
「満月がまともならなあ。お前友達多いだろとか言って丸投げできるんだけど」
満月はあんな見てくれだがデキる男ではある。何か仕事を投げれば大体のことは卒なくこなしてくれるのだ。
「叶芽先輩…」
星陽の言葉に弥幸はピクリと反応する。
「…は、何もしなくてもモテてるだろうし相談しても仕方ないか」
そうだそうだ聞かなくていいと心でヘドバンしまくっていると
「あ、空知」
閃いたと言わんばかりに星陽が言った。
選択としては正しい気がする。友人が多そうだし、仕事柄たくさんのカップルと会っているはずだ。 
 大体、これどういう相談なんだよと弥幸は思う。星陽が話を妙に早く切り上げているもんで、天音が具体的にどうしたいのか良くわからない。

「話をしたり、手を繋いだりしたい?…それは、話をして手を繋げばいいんじゃん?」
 …ですよね。
星陽と空知の会話を聞きながら弥幸は思う。
「そう…だよな…」
星陽が若干意気消沈している。かわいそうなので、弥幸は後方支援として言った。
「俺が前見た時は、ニコニコしながら無言でパン食って、手紙交換し合って手ぇ振りながら嬉しげに別れてたからな。そうだな…小学生か中学生くらいで付き合ってる奴らくらいなんじゃないか?恥ずかしくて話せないとか、手なんか繋げないってことだと思うから、それでも自然と話せたり手を繋げたりできる雰囲気に、どうやったらできるかってことだろ」
何の金にもならないこんなことを真面目に考えて自分も大概お人好しになったなとは思うのだが、ここに向かいながら、甚だ心細い星陽からの情報を弥幸なりに整理してみたのだ。
「弥幸…お前最高かよ…」
振り返る星陽の瞳の輝きが帰ったらしよーぜとでも言いそうな雰囲気だったので、素早く視線を逸らし空知を見る。
「ああ、そういう?…っても、小学生中学生か。ちょっと遠すぎて思いつかないな」
と、空知は本当に遠い目をしながらつぶやいている。
「空知の恋人の人とかは?たくさんの人と付き合ってんだろ?」
「あー、愛和?参考になんないなんない。あいつ速攻寝るから。逆に俺以外とデートらしいデートしたことあんのかな」
こいつ心強すぎだろと思っていたら、頭を捻っている星陽と空知が気づかないように、そっと後ろから近づく人物がいる。弥幸にシッと指を立てると、空知の背中からフワリと抱きついて言った。
「誰の話ですか?」
ハスキーボイスな女だと思ってたら、
「愛和じゃん。あ、弥幸。この人が空知の彼氏」
と、世間話のついでのように星陽が紹介して来た。
さっきチラリと聞こえた話でビッチというイメージだったが、実物は思っていたより普通だ。
かけていたメガネをカジュアルスーツの胸ポケットに入れると、ホテルのロビーだと言うのにそのままの体勢で言う。
「お話ちょっと聞いてました。つまり、その二人を、どうしても話したり手を繋いだりしなければならない環境に置けば良いということですよね?」
言ってニッコリと笑った。

ホテルでは猫かぶってる

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第二十四話〜弥幸✖️星陽

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