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第二十四話

「ウチの大学、体育祭なんてやってたのか」
弥幸の言葉に満月が答えた。
「何か数年前くらいから急に始まったらしい」
「この時期に自殺者が重なったらしくて」
そう続ける千聖を、星陽は見る。
「詳しいな」
「って、今星陽の横にいる自殺者が言ってて」
千聖がサラッと言った。その横に並ぶ満月の視線も共に、自分の空いている左横にある。
「…え!!マジかよ!」
 そういえば何かここだけ妙に寒い気がする!
横の千聖とその横の満月を越え、星陽は右端にいる弥幸の隣に避難した。
のだが、移動するルートそのままに千聖と満月の目が星陽を追ってゆく。
「うわっ!今絶対、その幽霊俺についてきただろ。もー何でだよ。お前、俺についてきても意味ないって」
全然見えないが、何となく背後の方に目をやりつつ言ってみる。
そんな星陽に満月が聞いてきた。
「そういえば、お前なんで袴なの?」
「使ってるユニフォーム着て走る部活動対抗リレーがあんだよ。これバトン」
と竹刀を見せる。
「あ、それで。彼、剣道部出身の地縛霊だから」
千聖の言葉に満月が頷いた。
「あー、なるほど。だから星陽に」
先輩に敬意は払う方である星陽だが、幽霊となると別だ。
「千聖、お前祓えるんだろ。何とかしてくれよ」
「…えー。でも取り憑こうって気はないみたいだし、せっかく懐かしがってるんだから1日ぐらい側に居させてあげれば…」
気が乗らなそうに答えていた千聖が、視線の先に何かを捉えたようだ。
「あっ、来た!」
嬉しげに言うと、医療関係者控え用のテントに目をやった。

 部活に入っていないので特に役割もなく出場するわけでもない千聖が体育祭に来ているのは、救護班として正義が来ると聞いていたからだ。
 こちらに気づいてくれたようなので、行って来るねと皆に声をかけようとした千聖は、星陽を二度見してしまった。
 幽霊が消滅しかけてる?
再びテントに目をやると、男性がもう1人、正義に話しかけながら入って来ている途中だった。
「あぁぁ!!叶芽先輩じゃん!!」
星陽の歓声に気づいたのか、叶芽先輩と呼ばれた男性はこちらを見ると、王子スマイルでちょっと手を振る。
 もちろん男性は美しいのだが、それよりも、男性が通って来たと思われるルートの霊が綺麗さっぱりいなくなっている方が驚きだ。
 霊を消滅させてる…
サンドラはいるだけで霊を退却させるが、消滅まではさせない。魂の力なのか生命力なのか分からないが、とにかくすごいパワーだ。
 正義先生が言っていた好きな人は、この人なのかもな。
 すごくモテると言っていたことに、千聖は納得するものがあった。
 確かにハンサムだ。けれどそれ以上に、この人が側にいたり、この人と話したりすると、相手に何か悪いものが憑いていれば全て消滅するだろう。そうすると体が軽くなったり心が晴れたりするはずだから、皆気分が良くなるに違いない。だからこの人は恋愛友愛問わず、ものすごく人モテすると思う。

 うっわ、あいつかよ。
 弥幸は叶芽を見て苦虫を噛み潰したような顔になる。自分の体の陰から飛び跳ねるようにして手を振っている星陽を庇うように体を移動させると、それに気づいたのだろうか。ちょっと面白そうに笑い、関係者席につきながらもう1人と話をしているのも本当にムカつく。
 叶芽の元に行こうとしていた星陽がふと立ち止まり、メッセンジャーバッグを開けて携帯を探り出した。画面を見てから弥幸を見上げる。
「空知たち着いたってよ」
 ここで弥幸と星陽が所在なく立っていたのは、空知と愛和待ちのためだった。体育祭会場に来ると千聖たちがいたのでたまたま並んでいただけで、弥幸、星陽2人と満月、千聖2人の用事は実は関係がない。
「ウソ、すっげえ」
星陽がケタケタと笑っている。
「弥幸、見ろよ。弁当の豪華さ半端ないぞ」
 送られてきた写真2枚は、大きな風呂敷包とそれに包まれていたお重を開けた所で、中身はフランス料理のフルコースレベルで伊勢海老まで入っている。
「これ運動会の弁当じゃないだろ」
国の威信すら感じさせる出来で、各国首脳か国賓でも来るのかと思えるほどだ。
「座る場所なくなったからブルーシート買ってくるって。ウケる」
笑い終わった星陽が、涙を拭きながら満月と千聖を見た。
「これ俺らじゃ食い切れねーわ。昼メシの予定特になかったらお前らも来る?ブルーシートなら場所もあんだろ」
 満月と千聖はちょっと目を合わせると、2人で写真を覗き込んだ。
途端
「えっ。何これすごすぎる」「絶対行くわ」
と歓声を上げる。
 …まあ、こいつらならいいか。
弥幸は、満月と共に空知たちの元へ向かった。

叶芽先輩がいるとものすごく柄悪くなる

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第二十五話〜弥幸✖️星陽

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