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⑰ ジョン

名前:ジョン・X (エクス) ・プロウ

年齢:18~22

性別:男

所属: ヤマネコ→ヴァサラ軍 四番隊 特別参謀

極み: 爆 (ばく) の極み 「爆天」 (バッテン)

刀の色:赤・オレンジ (二本とも)

仲の良い隊員: ビャクエン・フレイム・イブキ

因縁のある敵: 特になし

一人称:俺
二人称:お前(目上の方と女子には○○さん)
ヴァサラだけは 「総督」 とよんでいる

関係人物:オルキス... 師匠、ライク... お嫁さん 、七福... よく騙される 、イネス... 仲良し (?)
(イネス曰く「まあ、仲が良いと言っても良いわね」)

元 超過激派テロ組織 「ヤマネコ」 に属していた。
ビャクエンに諭されてヴァサラ軍への門を叩き、入隊した。
強くなりたい < 偉くなりたいな男。
俗物。

速度は四番隊最速。あまり任務に忠実ではないけどシンラさん曰く 「内に熱いものを秘めている」とのこと。

おでこと右頬と左目の傷はヤマネコにいたとき についたもの。左目には瞳孔がなく、視力を失っている。かけているサングラスはヤマネコにいた頃に上官からくすねて来たもの。
同じくヤマネコにいた時に女の子にもらった赤いリボンを大事にし、髪に結んでいる。

(@宗サクジロー様/デザインしてくださったものはこちら→武器遊撃隊マーク


 特徴的な音が響いた。
鳥の鳴き声にしては高い、だが口笛にしてはまろみがある音。これは相棒であり息子のようでもある白梟の獣人、ソルの合図だ。

 幻覚から漏れるものは各個撃破するとして、幻覚に引っかかっているものも戦闘不能にしていかなければならない。集団催眠効果なのかわからないが、引っかかっている兵士たちは大抵、一定の範囲内をウロウロしている。
 ソルは上空や森林内を飛び回り集団を探し、見つければ今のように音で合図する。ジョンがソルの合図を追って爆薬罠を仕掛けてくれていた。

 金属音がした。
渡る枝を少しずつ低くしながら移動して行くと、音の発生地点は少し開けた場所だった。
 樹冠から覗いてみると2対8の戦いで、8側に遊撃隊マークがついている。
5人だったはずの手勢も3人増えていて、相手国側から寝返った者もいるらしい。ここは大丈夫だろう。

遊撃隊マーク



 移動音をさせないように葉が柔らか目の樹木を選んで進んでいると、目の端に何かがチラと過ぎて行った。木々の緑とちょうど補色になる赤いリボンを木陰に見え隠れさせながら去って行くジョンだ。視力と動体視力だけには自信があるのだが、見下ろしているにも関わらず目で追うのが大変なほど速い。

 気をつけなければ見失うぞと思いながら、とにかく赤を目印に追いかけて行く。途中で一瞬止まり、ポケットからタバコを出すように物を取り出した。何かを歯で引くと、木々の中にポンと投げる。
 忘れた頃に軽い破裂音がした。

 ジョンは爆発物が専門だ。
それは元々所属していた、ヤマネコという超過激派テロ組織で鍛えられた能力だ。




 初めて一緒に戦ったのは、医療班や食料移送班など非戦闘員も多い中隊に派遣された時だった。八番隊隊員としてというよりは警護員として個人的に派遣された形で、隊の任務に縛られることが少ない非常勤のジャンニにはよくあることだ。

 物資の支援をしがてら大隊に合流する予定だったのが敵方にバレた。
分断された一部が山越えの途中で孤立してしまったのを、誰かが救助に行かなくてはいけなくなった。

 誰かがと言ったが、それはほとんどジャンニが行くことを意味していた。戦闘員自体が少ないのに人を率いた経験がある者など皆無に等しいし、現場が山中だ。

 行くのは別に良かったのだが、誰と行くかが問題だった。ここにも戦闘員を残さなければならないので人をあまり割けない。それに、人数もわからない敵と相対さなければならない場所に積極的に行きたい人間などいるだろうか。
 思い切って1人で行こうかとも考えた。それでも敵は倒せると思う。しかし非戦闘員である味方を完璧に守れるかというと微妙だ。

 その時、名乗り出てくれたのがジョンだった。
まだ入って日が浅かったのだろうか。ジャンニはその時、まだジョンを知らなかった。だが佇まいからして実力がありそうだったし、なんと極み持ちというではないか。
 傷がある顔とサングラスという容貌は厳つかったが、でしゃばってすいませんと書いてあるようなちょっと照れた笑顔はなんとも言えずチャーミングだった。
 極みを持っているということは、それ以外の戦闘能力も比較的高いということだ。何人かわからないとはいえ、非戦闘員メインの小隊を分断する程度ならば、敵もそう人数を割いてはいないだろう。
 2人いれば大丈夫そうだと思い、連れ立って山へ向かった。



 また向こうでピィーっと音が鳴った。

 ジョンは音が鳴っているところに真っ直ぐ向かっているだけではなさそうで、ヤマネコ時代の勘だろうか、時々森林の奥に潜っては先ほどのあまり音がしない小型爆薬を仕掛けてくれているようだ。
 最初にソルの合図があった辺りに先に着いたのはジャンニの方で、樹上から目視できる範囲には、ゾンビのように歩き回る正体を失った男たちがいて異様な雰囲気だった。

 倒れ込んでいる数人はもう精神が崩壊してしまったのだろう。
足止めするだけのはずの極みでも、上手く嵌ったり精神的に弱いものは壊れてしまうことがある。今回はガリュウの波動のおかげで戦闘不能になったものも多そうだ。

 ここは受け持つか。

 太めの枝を選んで立ち上がってみると、右後方60度辺りにチラリと赤が見える。真っ直ぐこちらに向かって来るようだ。

金髪が見える。黒いシャツが翻る。白いTシャツが近づいて来る。

 投げナイフを構えた。
 ゾンビエリアに入る直前の足元に投げる。
 タタッと軽い音がしてジョンの進行方向の木の根と土に刺さった。

飛んできた武器を、ジョンは後ろに飛び退けた。
ナイフに刻まれた十字を見て、その起点を見上げる。
ジョンと目が合ったジャンニはカソックから無銘のダーツ矢とペンを出し、軸に素早く書いた。

「GO AHEAD」

根元にナイフが刺さった木の幹に投げ刺すと、メッセージを見て頷く。
そのまま行くかと思ったら、また見上げてジャンニを指差した。

何だ?と思っていると、根と地面のナイフ、幹のダーツ矢を抜く。
1つずつジャンニに投げ返して来た。

 ナイフ一本は今いる枝の足元に刺さり、もう一本とダーツ矢は続けて眉間辺りに飛んで来る。ナイフを避けながらダーツ矢の軸を持って止めたが、これは危ない。
ナイフを抜くジャンニに邪気のない笑顔でニカっと笑うと手を振り、ジョンは森の中に消えて行った。

 …親切心なんだな。
ジョンが消えた辺りに感謝の念を送り、ゾンビエリアに降り立った。

ジャンニさんの、特注の投げナイフ&ダーツ矢




 何かが唐突に現れた気配に数人が我に返る。
これで現実に戻って来れない兵士たちは戦闘終了まで再起不能だろう。

それぞれの武器を構えジャンニを囲むのは7人だ。

「OK.Fight」
戦闘暗示と共に、レーダーの探索範囲が広がるように背中の視界が開ける。

ゲリラ戦にカソックを着てくるような人間を向こうも弱いとは思っていないようだ。
剣を持っている人間2人は構えたまま、残り5人は銃だろうかナイフだろうか。
何も持っていない右手や左手を、何かを掴み出す形で腰のやや後ろに構えている。

鳥の声どころか風音さえ聞こえない。やけに無音だ。

動かない時間が過ぎてゆくごとに空気が張り詰める。

 そうだ、これだ。

緊張感がジリジリと焼くのが気持ち良い。

戦闘欲?

アセクシュアルであるジャンニが唯一感じる、性欲に似たもの。

下腹の奥にできた熱い塊が広がってゆく。
腰から背骨を伝い、首筋から脳天へ。

とにかく、この熱をどこかに逃したくてたまらない。

体の内部を侵食する熱が頬に上がる。
変な笑いが口の端に浮かび、興奮で指先が震えた。


—— さあ。

誰か動け。


パアンと銃の音が響いた。
弾けたように7人が地を蹴った。

耳元でチュンと空気を割く音がし、髪がひと房そよぐ。

肩先。
腰。

鼻先に硝煙の香り。

次の音。

下草に身を沈める。
音の方へ足払いをかける

2人が仰向けにバランスを崩した。
その上半身に手を突きバク転をする。
2人の後頭部が地面に叩きつけられた。

着地にしゃがんだ姿勢から、木の根元を蹴り体を捻り上げる。
振り上げた右足に勢いを載せ後方回し蹴りを入れる。
上半身を半ばこちらに向けた3人を刈った。

同じ方向にまとめて飛んだ3人が、低木を叩き折り、幹にぶつかり、崩れ落ちた。

残り2人。刀と銃。
だが銃の方はもう弾丸がなくなったようだ。
銃身を草の中に投げ捨てると唯一残っているひ弱なナイフを構える。

「El fin.(終わりだ)」

 呟いて動こうとした瞬間、激しい力に下半身を固められた。
幻覚に溺れ戦闘不能だと判断した兵士の内の2人だった。
祈りなのか呪いなのか。
意味がわからない言葉を呟き、左右で這い上がるように縋り付き、泣きながら笑っていた。


地獄に引きずり落とされる宗教画のようだ。



 ジョンとの初めての共闘は、あっさりと短時間で終わった。思ったより敵が少なかったのもあるが、それ以上にジョンのおかげだ。
 日が暮れたので山を降りるのは危ないということになり、たっぷりある物資をあけ、食糧移送部隊の人々と共に焚き火を囲み野営をした。

 なんとなく楽しい夜だった。
 パチパチと爆ぜる焚き火に橙色に照り出されたジョンは、初対面だというのに随分と色々なことを話してくれた。
 その時告解のように、少し前にヴァサラ軍が壊滅させたテロ組織、ヤマネコにいたことを話してくれたのだ。
 自分は罪を犯していたし、罪のない人を傷つけた。そのことに、ヴァサラ軍に組織が壊滅させられて気づいたとジョンは語った。
 話を聞きながら浮かんだことを、ジャンニはその時言わなかった。



 地に縫い付けられたまま、長刀が目の前に迫る。
振り上げられた刀身は木漏れ日のスポットライトを浴び、一瞬形が見えなくなった。
それから、刃を舐めるように陽光が移動して行く。

刀が自分に向かい、振り下ろされているのだ。

 刀身を避けた。
 右肩を刃が擦る。

腰まで這い上がっていた兵士の背中に刃が落ちた。
引き切る切っ先に従い、背に宙に描かれる赤い一直線。
その血は傘に最初の雨粒が落ちてくる音で、下葉に散った。

と同時に、咄嗟に防いだジャンニの左腕に吸い込まれるようにナイフが刺さった。

背中を切り払われた右の兵士が、腰から膝までズルリと滑り落ちた。蹴り避ける。

間髪入れず振り下ろされた刀を、仰向けにしゃがみながら引きつけた。
自由になった右足首を引っ掛けるように手元を蹴り上げる。
同じ足で腹を蹴り距離をとった。

立ち上がれる。

ナイフの男と刀の男をまとめ、体全体を使った回し蹴りを喰らわせた。

1人が少し近い草葉、もう1人がちょっと遠い木の根元に飛ぶ。
それを確認しながら、左足にまとわりつく兵士を踏みしだいて外した。




 あの時、焚き火を見つめながら思ったのはこういうことだ。

 私が生きて帰ることは、ジョンやガリュウやラディカ、そしてヴァサラ軍の友人にとっては罪ではない。だが、今周囲に伸びている7人にとっては罪だろう。

 ヤマネコのテロ活動には人道に外れていたことも多かったかもしれない。
だが一部の人間にとっては確かに聖戦だったろうし、そういった人間にとっては壊滅させたヴァサラ軍が罪だろう。

ならばジョンの育ったヤマネコを潰し、今までやっていたことを罪だと思わせたヴァサラ軍も罪人なのではないだろうか。

 そしてそこに所属する私も、紛れもなく罪人だ。



 不意に、花火が上がるような音が響いた。

小気味良いほどに規則的な爆発音が続く。

バン
バアン
パン
パン

きれいに遠くなってゆく連続音は、ジョンの腕を証明するアートのようだった。



 自分には答えが出せそうにないことを、いつかジョンに尋ねてみたい。

「ジョンはなんで、ヤマネコが罪だと思ったんだい?」


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⑱ ラディカ


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