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N-1 VICTORY【DAY5】〜思い出を超えるのは未完成の未来〜

※トップ画像は@shun064さんの作品です。

プロレスリングノア、9.26後楽園ホールのN-1 VICTORY【DAY5】。10.3の決勝トーナメント進出者が決まるリーグ最終節。この大会は通常とは異なり、リーグ戦8試合シングルマッチのみという特殊な形で開催されました。

正直8試合全てに見どころがあり「この試合がベスト」という判定は中々取りづらい大会でした。観戦した人それぞれのベストバウトやMVPがあるそんな大会だったと言えるでしょう。ちなみに全8カードの中で、前半の4試合の結果によって後半4試合が決勝トーナメント進出者決定戦となりました。特に後半の4試合は今回のN-1を象徴する内容だったと思います。順を追って見ていくと…

第5試合:中嶋勝彦VS桜庭和志(過去と現在)

言わずとしれたMMAレジェンド桜庭和志を相手に、中嶋勝彦は敢えてその土俵には乗りませんでした。前回までの対戦ではグラウンドのポジション争いに積極的に乗りましたたが、今回は組み合えばすぐにロープに逃げるなど、相手の流れをしっかり切る形をとっていました。それならばと桜庭の方から中嶋に接近。打撃を得意とする中嶋の側に踏み込み、切れ味鋭いキックを見舞います。更には桜庭はグラウンドでの4点ポジションからの膝蹴りを解禁するなど、己の引き出しをどんどん出してきました。しかしフロントネックロックで勝負をかける桜庭を中嶋は力技で持ち上げ、必殺のヴァーチカルスパイク(垂直落下式ブレンバスター)でマットに突き刺します。レジェンドとのヒリヒリする領域争いを制した中嶋が決勝トーナメント進出を決めました。

第6試合:拳王VS望月成晃(現在)

こちらは拳王がN-1前に言ったノアの戦い。それをまさしく見せつけた試合です。現在のノアの試合の武器でもある強烈な打撃を中心とした激しい試合。それを外敵望月相手にしっかりと観客に刻み込みました。両者得意のキックはもちろん、時折その武器を崩すアンクルホールドの攻防。軽重量級だからこそできるスピードと切れのある試合ですね。さらには拳王のナックルや望月の正拳突きなど、お互いの引き出しをどんどん開きました。その中でも望月の技を全て受け止める拳王。これは拳王なりのノアのレスラーとしての矜持かもしれません。最期はPFS(パーフェクトフットスタンプ)ではなく拳王の裏技たる胴締めスリーパーで望月からタップアウト。

第7試合:藤田和之VS船木誠勝(過去)

ノアのシングルリーグ戦で藤田と船木が試合をする。これだけでも驚きですね。試合は緊張感あふれる果し合いでした。歓声を出せない今だからこそ、その雰囲気がより強調されました。関節の取り合い、グラウンドのポジション争い。そこに藤田はハンマー、船木は日本刀のような打撃。現代プロレスとは全く色が異なる。しかし古臭さを感じさせない試合です。試合時間は短いですが、藤田のビーストボム→サッカーボールキックのフィニッシュコースをかいくぐった船木。さらに船木は変形回転エビ固めで藤田を四つん這いにさせると顔面キックで藤田を叩き切る。という見どころが凝縮された試合でした。

第8試合:武藤敬司VS清宮海斗(過去と未来)

今年様々な経験を積んだ清宮海斗の満を持しての武藤越えが成るか?また前回の武藤戦やムタ戦から清宮がどのような変化を見せられるかにも注目が集まっていました。この試合は清宮のこれまでの積み重ねを全て発揮した試合だったと言えるでしょう。武藤得意のグラウンドポジション争いにもしっかり食らいつき。攻撃面では腕を中心とした小川良成仕込みのロジックレスリング。防御面では武藤の技に怯まず受け止める強さ。かつてのノアが持っていた懐かしい匂いに、自分なりのアレンジを加えて清宮海斗のプロレスの片鱗を見せつけました。試合自体は30分ドローという形で、勝敗として武藤を超えることはできませんでした。しかし勝てば武藤を超えたとも言えないのがプロレスです。相手の存在感を食らいつくしてこそ超えたといえる要素もあります。そうした意味では武藤を食うというところまでは到達したと言えるでしょう。あとは食い尽くすという段階だけですね。


後半4試合について語ってみましたが、これらは過去・現在・未来が見事に表現された試合だと思います。過去と現在の戦い、現在の戦い、過去を突き詰めた戦い、過去と未来の戦い。どの年代のプロレスファンが見ても刺さる試合だったと言えるでしょう。特に第8試合の武藤VS清宮。以前武藤はアントニオ猪木に対して「ファンの思い出には勝てない」と言ったことがありました。月日は流れて今は武藤自身がアントニオ猪木のような存在「思い出たる存在」になりました。その武藤に対して挑んだのが清宮。ただし当時の清宮が武藤と異なるのは清宮が未完成であるという部分です。未完成だからこそ完成した姿をファンが想像する。ときにはファンが想像する完成形の以上片鱗を見せる。清宮がこうした選手だからこそ、9.26で清宮は武藤に肉薄できたのかもしれません。

さて。こうしてN-1の決勝トーナメント進出者が確定しました。

清宮海斗VS拳王。中嶋勝彦VS船木誠勝。この勝者が決勝戦を戦い、優勝者が決まります。過去の船木か?現在の拳王中嶋か?それとも未来の清宮か?過酷なダブルヘッダーを制するのは果たして誰だ!

10.3はAbemaで生中継もありますよ!


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