プロレスを抜き出しで観る人たち〜試合評価の新たな軸〜

先日こちらの本を読みました。※今回の記事のタイトルもこちらの本のタイトルをオマージュしています。

コロナ禍の影響もありプロレス業界にも定額制の映像配信サービス(サブスクリプション)が急速に拡大しています。プロレスリングノアもCFグループのサービスであるWRESTLE UNIVERSE。そしてAbemaなどで試合映像配信にかなり力を入れています(ある意味興行収入よりも重視しているような面もあり)。場合によっては映像配信サービスでの視聴者数>会場での観客数という状況も考えられます。というかAbemaの視聴回数などから考えれば映像配信サービスでの視聴者数の方が多いでしょう。これは試合をどのように評価するか?という部分で新しい視点が生まれたということを意味しています。

これまでは試合の評価については、会場で視点が大部分を占めていました。もちろん過去にはDVDやTVでの後日放送などもありましたが、前者は販売数もそれほど多くなく。後者は視聴者数こそ多いですが、映像配信に関する金額を団体側でコントロールすることは難しいです(力関係で言えばあくまでもTV局からの提示額を飲む形でしょう)。

しかし団体が直接運営している映像配信サービス(以下サブスク)では?こちらは視聴者増が団体への利益に直結します。であれば会員数増は団体の至上命題となります。実際サブスクを持つ団体は程度の差はあれサブスクへの加入者数増加に力を入れています。そしてその結果として大会によっては、サブスク視聴者数>会場観戦者数という状況も生まれているでしょう。ましてやコロナ禍の状況ではこれまで会場に行けていた層が、諸々の事情で会場に行けないケースも増えていますし。

こうしてサブスク視聴者数が伸びれば、サブスク視聴者からの試合評価という新たな価値基準も生まれます。生配信の場合は両者に大きな違いは無いでしょう。しかし後日配信の場合はどうか?そのあたりが気になって投票をしてみました。

私のフォロワーさんはプロレスファンかつノアファンの方が多いという傾向です。なので一定のバイアスはかかっていますが、後日配信を視聴する場合は「一つの大会を通しで視聴する=生配信に近い形」と「注目の試合だけを抜き出して視聴する=ピックアップ型」で意見が2つに分かれました。

ピックアップ型は新しい視聴スタイルです。通常プロレスの大会であれば第1試合からメインイベントまでを通しで行うため、大会の中で起承転結を作ります。いわばコース料理です。

一方ピックアップ型は自分の見たい試合だけを抜き出して視聴します。いわば一品料理です。この場で視聴方法の優劣を決めたいわけではありません。あくまでも種類が異なるという意味で捉えてください。

例えば6.23の新宿大会。この試合はセミで覇王とタダスケのノア追放を掛けた試合。メインでHAYATAと大原はじめのGHCJrヘビーのタイトルマッチが行われました。会場で観戦した私の感想は「騒然としたセミの空気をメイン序盤二人の静かなグラウンドの攻防でクールダウンさせた」という印象がありました。

しかしメインだけ抜き出して視聴した場合。人によっては単に地味なスタートの試合という印象を持つ可能性もあります。またセミだけを視聴した人はやりきれない気持ちが収まらないという可能性もあります。

同じ試合でも視聴方法が異なることで、試合に関する印象はかなり変わります。これまでのようにコース料理を出せば良いとは言えない。むしろ一品料理をオーダーするお客様も増加してる(場合によってはコース料理オーダーよりも多い)。コース料理としてなら食べられていた料理が、一品料理として見られると食べられない。そんな可能性もあります。割とドギツイテーマの試合が増えたのもそうした影響かもしれませんね。

とはいえ全てメインディッシュを並べれば今度はコース料理をオーダーするお客様から「こってり過ぎて胸焼けする」と言われてしまいます。

サブスクという収益面の柱を得た一方で、団体側はこれまでと異なる課題に直面しているのかもしれませんね。中々難しいですが、この課題をどのようにして乗り越えるか?それこそが団体の腕の見せ所なのでしょう。




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