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三沢光晴がノアで目指したもの〜ノアの真の色は?〜

画像は#エア三沢メモリアル
のために@shun064さんが書き起こしたものです。

三沢光晴について書こうとすると、多くの場合「レスラー三沢光晴」について触れられることが多いです。試合の凄さ。技術の深さといったところですね。もちろんそれ以外でも「人間三沢光晴」についても触れられることも多いです。仁義を通す。カッコいい大人。誰にでもフラットに接する。そうした人間性も三沢の魅力ですね。

今回は
#エア三沢メモリアル
に際した記事でもあるので、少し違った角度から、三沢光晴に触れてみたいと思います。テーマは「ノアの長として三沢光晴が目指したものは何だったのか?」です。

それは大きく分けて2つあります。1つは「選手の環境面の整備」です。今風に言えば「レスラーファースト」ですね。三沢がノアで行った選手の待遇面の改善として、次の点を上げることが出来ます。「年俸制」「定期健康診断」「引退後の生活基盤作り」。年俸制導入により「ローンが組めるようになった」(秋山準談)。定期健康診断導入により「小橋建太の腎臓がん早期発見」に繋がった。実現はしなかったものの、選手引退後に飲食店経営などの道筋を作ろうとした。これらはいずれも、「選手が安心して試合に専念できる環境作り」のために行われたことです。

良い意味でも悪い意味でも選手任せだった部分を、きちんと会社としてケアする。特に「ローンが組める」という点を見れば、「銀行に信用される=プロレスラーに社会的信用がある」ということを意味します。「プロレスは他のジャンルに負けない」。そんな熱い想いを持っていた三沢だからこそ。待遇面の向上で、社会にプロレスラーを認知させたかったのかもしれません。

そしてもう1つは「全てのレスラーに自由を与えた」ということです。これはリング上のことですが、「秋山の新日本参戦」「高山善廣や杉浦貴の総合格闘技挑戦」「丸藤対KENTAの武道館メイン抜擢」などが主なトピックです。きちんと筋が通ってさえいれば、選手にはやりたいことをやらせる。試合の質が高ければきちんと評価する。選手の階級は関係ない。選手に対してあれこれ指示を出し、型にはめるわけではなく。自分自身の頭でしっかりと考えさせる。これにより多くの選手が輝きました。

特に興味深いのは選手に対して「三沢が好む試合」を求めなかった点です。三沢自身は技術を全面に出して、論理的な試合をするタイプです。あまり感情を表に出すタイプではありません。だからといって、自分と異なるタイプの選手を冷遇することはありません。小橋建太のように「感情むき出しのファイト」。高山のように切れ味鋭いコメントを発する。力皇猛のような「パワー溢れるファイトスタイル」。いずれも三沢とは異なるタイプです。しかし三沢が高く評価した選手たちです。レスラー三沢光晴の理想と異なっていても、選手がしっかり考えたものであれば受け入れる。そうした「リング上の自由度の高さ」を、三沢がノアで作り上げました。

これらをまとめると、三沢がノアで目指したものは「大いなる土台作り」と言っても過言ではありません。選手の環境面を整備する。それと同時に各々が自由に考えて、なりたいレスラー像を模索する。ノアといえば「三沢の緑」というイメージが強いです。しかしよくよく考えてみると、三沢が目指したノアは「真っ白なキャンパス」だったのかもしれません。小川良成の言う「これがノアのプロレス」ではない。「これもノアのプロレス」だ。この言葉からも、三沢がノアに特定な色をつけようとしなかったことが伺えます。

しかし私を含めたファン側はそうは見ませんでした。ノアは三沢の団体だ。エメラルドグリーンのリングだ。そうした価値観を、旗揚げ時からずっと持ってきました。ノアの20年超の歴史において、リデットエンターテイメント買収以前に「エメラルドグリーン以外の色」にノアを染めたのは小橋建太だけでした。他のどの選手も、自分の色でエメラルドグリーンを消すことはできませんでした。もしかするとそうしたギャップが、コンディション不良の三沢をリングに上げ続けた要因だったのかもしれません。

リデットエンターテイメントがリングの色を白に変えたのは偶然の一致ではなく、「三沢が望んたかもしれない形=レスラーが自由にできるリング」を目指したからかもしれません。そうして白いリングで、選手が自由に戦い。ノアの価値は向上しました。

その後サイバーファイトグループ入りしたノアは再びエメラルドグリーンをロゴに纏いました。これが「三沢の色を残しつつ、しかしその色に負けない」。「緑を背負いそれを超える」という意思表明だとしたら。武藤敬司という劇薬を飲み込んだ理由も腑に落ちます。三沢の緑に負けない色を創り上げる。そのための武藤敬司なのかも。

こうして考えると、三沢にとってのノアは、「自分以外の誰かのための場所」だったのでしょう。自分が輝くことが目的じゃない。みんなが安心して自由に戦える場所。ノアは紆余曲折の歴史を辿って今に至ります。今年の三沢光晴メモリアルは「武藤敬司・田中将斗対丸藤正道・船木誠勝」「杉浦貴対桜庭和志のGHCナショナル王座戦」なとがラインナップされています。単なるノスタルジーではない。今を生きる選手たちが、自由に躍動する姿を見せる。これも立派な三沢光晴への想いを込めた試合だと思います。きっと彼らの試合を見れば。目の間にその姿は無くとも。三沢光晴が目指したノアの光景を体感することができるはずです。

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