本気と本気のぶつかり合い〜プロレスリングノア3.21福岡大会〜

3月21日に行われたプロレスリングノアの福岡大会。前年の10月以来となった開催でメインイベントはどちらも田中将斗がGHCヘビーに挑戦という図式。しかし王者は前回とは異なり今回は藤田和之が福岡のリングに立った。2月に中嶋勝彦からGHCヘビーのベルトを奪取した藤田は試合後に「ノアは本気を味わう場所だと確信した」「本気の舞台で本気で戦うことは凄く幸せなこと」と語った。その後藤田ノア入団会見以降の「野獣から人間への変化」という流れにインパクトがあったせいで、「本気の場所」という言葉はそこまで注目を集めることはなかった。しかし3月21日の試合を通じて私が感じたのは藤田の語った「本気の場所」という感想だった。

例えば丸藤正道と矢野安崇とのシングルマッチ。大ベテランと団体最年少の若手との試合のフィニッシュは丸藤が矢野の首をねじ切らんばかりのヘッドロックであった。シンプルな技ではあるが「本気で使うレスラーの技はエグい」と観客に見せ付けるものであった。

HAYATA&小川良成とEita&スペル・クレイジーのタッグマッチもそう。反則裁定で終わり試合後にEitaがHAYATAの顔面をシャンプーまみれにするなど、一見コミカルに見えた。しかしここまで徹底的に。「相手を本気でおちょくる」という形に見ることもできる。

更にはGHCジュニアタッグの防衛戦。前哨戦では王者組の小峠&YO-HEYが挑戦者の鈴木鼓太郎&NOSAWA論外に徹底的に痛めつけられ後塵を拝する状態であった。そしてこの試合も押していたのは挑戦者組だった。しかし論外の見せた一瞬のスキ。そこで一気にYO-HEYが叩きかけ、最後はパーフェクトドロップキックで3カウントを奪った。挑戦者組は「本気で王者組を潰そうとした」。そした防衛に成功した王者組は「その勝利を本気で喜んだ」。

そしてメインイベントの藤田対田中のGHCヘビー戦。暴力的な試合スタイルでノアを席巻していた藤田。しかしこの日は田中に対して序盤は徹底的にグラウンド勝負を仕掛ける。試合序盤に静かなグラウンド勝負で相手を唸らせる。それはあたかも藤田の入門した当時の90年代新日本の試合のような出だしだった。そしてその藤田の仕掛けに対して、プロ「レスラー」なんだからそんなのできて当たり前と言わんばかりに対応する田中。ハードヒットやハードコアでのイメージがある田中だが、こうした引き出しの広さはやはり田中だからこそ為せるものだ。静かなグラウンドの攻防から打撃戦に移行すると試合は一気にヒートアップする。ゴツゴツとした人体同士のぶつかり合い。エルボーに頭突き等使っている技自体はシンプルだが、それを達人が扱うことで一つ一つが必殺技に昇華されている印象さえ感じられた。フィニッシュに至るパワーボム→サッカーボールキック→パワーボムの流れは「藤田が本気で田中を叩き潰そうとしたゆえ」の非情な攻めだった。敗れた田中もまた「本気の藤田に本気で立ち向かったため成立した名勝負」である。

この日も藤田は試合後に「ノアは本気の場所だ」と言葉を発した。


本気でぶつかることは簡単なようで難しい。「自分は本気じゃなかった」と予防線を張る方が楽だし逃げられる。また仮に自分が本気でぶつかっても、相手から「そんな厳しいことしてほしくない」と言われるケースもある。自分の心持ちと相手の心持ち。その両方があってこそ成立するのが「本気の場所」である。「ノアはベテランや外様が元気な団体」という声もある。しかし過去を紐解けば三沢小橋戦も丸藤KENTA戦も、その根底には「本気のぶつかり合い」がある。所属している選手や戦っている相手がいくら変わろうとも。そこに「本気のぶつかり合い」があればノアは今でもノアだ。この日の興行全体を見て私は改めて実感した。

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