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不安定な王者像とリンクしない試合内容〜1.27三冠戦中嶋勝彦VS芦野祥太郎

※今回のnoteは少し踏み込んだ内容になっております。「1.27三冠戦はめっちゃ楽しかった!」と思っている方にとっては気分を害する可能性がございます。また試合のレビュー的な部分は少ない&配信視聴での感想です。予めご了承の上ご覧ください。あといつもより長いです。









くそおおおおおおお。芦野まけたあああああああああああ。くやしいいいぞおおおおお。のむ奪還たのむぞーーーーーーーー。

これは「1.27三冠戦の中嶋勝彦VS芦野祥太郎」で「芦野が中嶋に敗れたときに」「ぼくが発するであろう言葉」でした。きっと負けたらこんな風に悔しがるんだろうなあ。とぼくは思っていました。しかし実際に試合を見終えて思ったこと。それはこれとは異なる内容でした。

「なんか思ってたのと違うな…」「あれ?こんなんなのか??」


それが嘘偽りないぼくの感想です。シリアスな攻防を軸にした緊張感のある戦い。それがこの日の試合だったと思います。実際に序盤の「中嶋のキックはいつ出るんだ!」「レスリング勝負で上を取らせない芦野の上手さ」といった部分は、そうした「緊張感のある戦い」を観客に伝えていたと思います。更に言えばキックを出した中嶋が芦野の左腕にヒット→芦野の顔が苦痛で歪む→腕攻めに切り替える。そうした「論理に基づいた試合」は中嶋が得意とするものであり。そこから中嶋が試合をコントロールして芦野からギブアップを奪う(芦野の好きにはさせない)。前述したように緊張感のある戦いというテーマを保って中嶋が芦野を下した。それ自体はとても良いことです(オールジャパニーズとしては悔しいですが…)。

クオリティとしては一定のモノを保っていた反面。一方で「この試合の立ち位置に基づいた内容」ではなかったのではないか?それがぼくの今回の肝となる部分です。ぼくがうっすらと考えていた「この試合の立ち位置に基づいた内容」それは二つありました。一つは「芦野が中嶋の攻撃を耐え抜いての勝利」です。ぼくはプレビューでも書いたように「芦野の3年での積み重ねは重い攻撃に耐えられる力をつけたこと」だと思っていました。


なので「中嶋に蹴られまくっても耐えきって勝つ」。そんな内容を期待していました。

もう一つの内容。それは「中嶋が圧倒的な強さをもって芦野を倒す」という形です。えげつない攻めとグラウンド勝負で圧倒する。それこそ張り手やハイキック一発で芦野を倒す。10分に満たない圧勝劇。芦野勝利を推していたぼくですが、それでも「ずば抜けて強い中嶋が芦野を粉砕する」という内容でもあり。もちろん悔しいにもほどがありますが、そんくらい強い相手であれば次の防衛戦にも繋がる。そんな風に考えていました。

さて実際の試合はどうであったか?。前述した二つのいずれの形でもなかったようにぼくは思いました。中嶋の狙いとしては「自分の強さを出しつつ相手の良さも消さない」という形を狙ったのかもしれません。しかし芦野は全日では「相手の攻撃を受け切る」という形です。そのため芦野の良さを出すには、もっとえげつなく中嶋が攻撃をしてこそ。またそこからの芦野の反撃を受けきってこそであったとぼくは思います。中嶋の攻撃自体は論理に沿ったソリッドなものであった反面、いわゆる派手なモノではなく。芦野もコンディションは悪くなかったが、長期欠場からの試合勘の鈍りがあった。

であれば途中から軌道修正をして中嶋が一方的に叩き潰すという形もとれたかもしれません。ただしそれをすると序盤で芦野のグラウンドの強さを出し切った点との整合性が…。

余談ですが序盤に芦野がグラウンドの強さを見せたこと。また猪木アリ状態になりかけた状態に付き合わなかったこと。このあたりを見ると、両者の噛み合わせもあんまりよろしくなかったのかも…。

もう少し深掘りしてみましょう。いわゆる「中嶋勝彦の王者像」についてです。「それは闘魂スタイルによる猪木オマージュだろう!」と言われるかもしれませんが、そうして表面的な部分ではなく。中嶋がどのように王者として振る舞うか(挑戦者に相対するのか)です。

全日の直近の外敵王者といえば新日の永田裕志です。23年にオールジャパニーズへ賛否両論(いや否の方が多いか)となる状況を作り出した外敵王者。永田の姿勢はわりと一貫していました。それは「最大手新日の尊大な王者」です。90年代マインドによる「新日(の俺含む)が一番に決まっているだろ」という立ち位置をとり。SNSでもリングでも上から目線をとる。それ自体にイラッとすることはあれど、その姿勢は王座陥落まで変わらずでした。コンディションが戻る前の前半(宮原健斗戦や石川修司戦)はそうした姿勢と試合内容が噛み合わなかったことで批判が出ましたが。T-Hawk以降はコンディションが戻ったことや「ベテランとして下の世代の壁となる形」を作れたこともあり。王者らしい姿を見せてくれたとぼくは思っています。後半の永田は「若手の攻撃を受けつつも要所で一枚上回る動き」をとることもあったので、彼の王者としての立ち位置と試合内容はハマっていました。

もう一つの例。それは中嶋がWRESTLE-1時代に外敵王者として君臨したとき。その際彼は徹底して「尊大で強くて悪い王者」になっていました。ベルトを放り投げるなどの尊大な態度をとり、試合でも相手を圧倒する。立ち位置と試合内容がリンクしていたからこそ、WRESTLE-1のファンからも強いヒートを買うことができたのでしょう。

では今の中嶋の場合はどうか?ぼくは王者像と試合がハマっていないと思っています。宮原も芦野も「最強(最高)の挑戦者」と評していることからも、中嶋は王者として尊大な立場をとってはいません。その流れでいくのであれば、相手の良さを引き出す形の試合をすることで、王者像との整合性はとれます(闘魂スタイル云々はややこしくなるので無視します)。宮原戦やデンプシー戦ではそれができていたように思いますが、この試合ではそれができていなかったように思います。

その原因がどこにあるかまではわかりません。中嶋の試合スタイルのせいか。芦野の試合勘のせいか。はたまた「そもそも挑戦表明から試合までの流れが唐突すぎる」なのか。

※追記
この辺は「永田の場合はゴールがわかりやすい形で設定されていたこと」「微調整をできる人(取説をもっている人)が全日にいた」という理由があるやもしれません。なので一概に「中嶋だけが悪い」とは言い切れませんね。

ここまで書いていてふと「実は八王子は石川が三冠に挑戦する想定だったのでは?」と思いました。半年ブランクがある芦野をいきなり三冠戦に持ってくる。更には「そもそもWRESTLE-1時代から因縁があるのに、そうした深掘りが少ない=それをする時間が少ないのに強行した」。そう考えると「そもそも何らかのイレギュラーがあったのでは…」。なんてね…。

外敵王者として中嶋はWRESTLE-1時代に王者像と試合内容を一致させていました。なのでそうしたことができないとはぼくはどうしても思えません。WRESTLE-1時代と同じことをしても焼き直しにしかならないので、他の路線を考えたのかもしれませんね。ただし別路線で今安定しているとも思えません。

ぼくの中で中嶋は次の防衛戦(斉藤レイ戦)はかなり肝だと考えています。キャリアの浅い大型選手を相手に王者像と試合内容をリンクさせた試合ができるのか?相手を引き出す路線にここでもトライするのか?ぼく個人としては「相手を引き出す路線の外敵王者」のほうが好きです。

ただしそれを安定してできないのであれば?いっそ尊大な外敵王者のほうがよいと思います。「相撲崩れなんて3分以内に倒してやるぜ」からのハイキック一撃で短時間決着みたいな。そんくらい強くて尊大な王者のほうが、野村直矢の三冠初戴冠の相手としてふさわしいですから!

そんな感覚なので、次の斉藤レイ戦は要注目ですよ!



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