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サヨナラ、男役・望海風斗——それでも人生は幸せだった/雪組『fffー歓喜に歌え!ー/シルクロード〜盗賊と宝石〜』

はじめに

 雪組『fff/シルクロード』大千秋楽おめでとうございました。
雪組トップスター・望海風斗さんとトップ娘役スター・真彩希帆さんの卒業公演。
 見届けることができて、タカラヅカファン冥利に尽きる、という気持ちです。

 私は、この公演を生で二回(それもありがたいことにそれぞれ一階と二階でバランス良く)、本日ラストデイとして配信で一回観たのですが、本当にたった三回しか見てないのかな?と不思議に思うほど、雪組の熱量を浴びて浴びて心も体も奪い尽くされた気がします。

「奪い尽くす/される」というのは、今回の公演において大事なキーワードでしたね。そして、それはそのまま「男役・望海風斗」を語る上でも大事なキーワードだと思います。
 この記事では、ラストデイ配信を見た後ホヤホヤの状態で、そんな風に感じたことをつらつらと書いていきたいと思います。
 主に望海さんについて。今回は公演評でもレポでもないので、今までの記事に比べれば短くまとまる……はずです!



奪い尽くされても奪い尽くす人

 さて、冒頭でも述べたばかりですが、この見出しが今回の公演を通して私が受け取った男役・望海さんの解釈になります。
 今回は、卒業公演だということもあり、当て書き中の当て書き公演でしたが、芝居の上田久美子先生もショーの生田大和先生も、突き詰めると望海さん、ひいてはだいきほコンビへの解釈は同じだったように思います。

全てを奪い尽くされるのが似合ってしまう人。だけど、その分すごい力で奪い返し奪い尽くす人。

 初回観劇直後の、あまりの衝撃で呆然となった自分の感想を見てみるとよくわかります。(Twitterに投稿済み)

 トップスターの卒業公演は、五年ファンをやってればもう何度も体験はしていて、毎回通常公演にはない特別な空気感があり、荘厳さを感じることも多々あるんだけれども、その中でも望海さんは種類が違う感じがした。荘厳なんて真っ当なものじゃない、深い業に畏怖する。
 卒業公演までいくと、大体のトップさんはそれまで培ってきたいろんなものがどんどん削がれていって、いわゆる大人の男役の「余裕」というものが頂点まで極まって、まるで初めて舞台に立つときのような、身一つのまっさらな美しさへと帰っていく。ものすごく純度が高くなるのね。
 たぶん、トップにしかわからない頂点の孤独としずかに溶け合っていくんだろう、みんな。
 でも、望海さんは逆。
 最後の最後まで孤独に対して苦しみももがく役だったし、舞台の真ん中で一人、苦しめば苦しむほど、もがけばもがくほど、ますます孤独が濃く深くなっていき、その焦燥が劇場を圧迫し揺さぶり、そしてそうとはわからないうちに窒息寸前の密度のまま愛へと変化していく。苦しすぎるしやばすぎるけどたぶんあれが望海風斗のタカラヅカの愛し方。
 自分の命を燃やながらこっちのエネルギーまで最大限奪っていこうとするトップスターなんて、本当に初めて。普通は、こっちが勝手に捧げるから。ものっすっごい熱量と執念。
 何度も言うけど、卒業って、ある意味「男役」を弔う昇華儀式のようなところある。でも、望海さんは最後まで炎に焼かれることを選ぶのね。
 業だ。

 この熱量で公演続けてるの、入り出待ちお茶会ないとはいえ、正気じゃないし、ほとんど化け物の域だと思う。(この状態が千秋楽間際ならまだわかるけど、ようやく公演折り返しらしいよ、こっっっっわ😇)
 全員無事に最後の幕が降りることを願うばかり。心ゆくまで燃え尽きることができますように。

 とにかく音量が圧倒的で、第一声からとんでもなく強い力で全身を揺さぶられて、呼吸もできないままずっと同じ熱量に包まれて芝居が終わり、ショーが終わり……という状態。全く未知の体験でした。
 まさに「俺の音楽を聴け!」&「君の最後を俺が奪おう」ですね。

 ベートーヴェンは、父親に虐待され捨てられ、恋に破れ、難聴となり……と幸せを片っ端から奪われるんだけれど、そこで絶望して死を選ぶのではくて、ずっと曲を書き続ける。自分が与えられなかった人間の光ってものを、どうにか手に入れたい、もしくは作り出そうと必死でもがく。その必死さを見ていることしかできない観客側は本当に苦しくて、そして、見ているだけなのに体力も気力も奪われて消耗していく。(特に、♪ハイリゲンシュタットの遺書はもう苦しくて苦しくて、だけどその苦しさがどうしようもなく愛おしいのか、勝手に涙が出てきます。そして、もうあえて言う必要はないのかもしれませんが、とんでもない歌の素晴らしさがまたそれを助長する)

 ベートーヴェンや盗賊の、平たく言うとハングリー精神みたいなものは、確実に望海さんの持ち味とリンクしていると思うし、そんな望海さんにとっての真彩ちゃんは、謎の女(運命)/青い宝石(ホープ・ダイヤモンド)として、「捕まえてみなさいよ」と翻弄するように見えて実はいつもそばに寄り添う存在、つまりは、もう一人のベートーヴェン/盗賊——もしくはベートーヴェン/盗賊の一部・半身——といっても過言ではない密着した存在であり、それもまただいきほの関係性をよく表していると思うのです。
 演出家の先生方は本当によく愛を持って描き切ったな、と感服するばかりです。
 何度も言うけれど、本当にとんでもない公演だ。



「清く正しく美しく、朗らかに」の中で「生きづらさ」まで表現する

 さて、これもまた、見出しの通りなのですが、望海さんには、どこか社会の表側——真っ当とされる倫理観が支配するキレイなキレイな理想郷、とは真逆の、混沌とした現実が似合ってしまうところがある。というか、現実の「生きづらさ」を背負ってほしいと思わずにいられないようなところがある。

 Twitterで書いたのですが、私が今まで見てきたどのスターとも違い、望海さんは、タカラジェンヌというフェアリーでありながら、ものすごく人間らしい泥臭さがあって、変な言い方ですが、見ていて安心するのです。この人とは同じ感覚を共有している、全て背負って立ってくれている、と感じるのです。
 望海さんの雪組は最初から最後までフランス革命と縁深かったけれど、それは、望海さんが市民の「代弁者」にぴったりだったから。そして、そんな望海さんは、ずっと私たち=観客の「代弁者」でもあったように思います。

 望海さんといえば、生粋のタカラヅカファンであることが様々なエピソードから知ることができますが、客席に座る一人のファンから舞台に立つタカラジェンヌになり、そしてトップスターとしてタカラヅカの顔となるまでには、当たり前ですがこちら側からは計り知れない努力の苦しさやときには愛ゆえの絶望がきっとあったわけで、それでも、この最後の舞台で「幸せだった」と言い切るには、とんでもない実力と精神力が要されることは想像に難くありません。

 個人的な話だと、望海さんの同期、私の愛した男役・美弥るりかさんも、同じくタカラヅカを愛する少女がスターになった方ですが、望海さんから受け取る印象とは全く違っていて、彼女は愛ゆえの「絶望」なんかを、静かに受け入れて赦し、決してこちらには見せまいとする柔らかな強さを持っていたように思います。私はその神々しいまでの「守り」の美しさが好きでした。
 一方、望海さんの強さというのは、「絶望」と最後の最後まで戦い抜く「攻め」の強さです。繰り返しになってしまいますが。

 私たちは、この生きづらい社会で、自覚的か自覚的でないかの差はあれど、確実に数え切れないほど傷つき奪われ、「絶望」に直面しています。そんな中で、どうにか生き抜くためにタカラヅカという世界を愛するのだと思います。
 この世界の中では、女性は男でも女でもそのほかの何者にもなれて、愛し愛され、美しい夢を見せてもらえるから。

 そんな「清く正しく美しく、朗らか」な世界では、あえて「生きづらさ」を表現する必要はないのかもしれないけれど、望海さんが演じる「生きづらさ」、それに対する葛藤や戦いは、間違いなく私たちを救ってきたのではないでしょうか。
 「人民の、人民による、人民のための政治」ならぬ「人間(=望海風斗/観客)の、人間による、人間のための舞台」を、タカラヅカで見せてもらった気がします

 今回のショーの終盤、群舞前に望海さんが一人で黒燕尾姿で登場する場面があり、その直前、普段は舞台を照らす銀橋上の四つのライトが、客席に向かって強い光を放ちます。
 一階席に座ったとき、その光の中で照らされて、私は望海風斗という男役の真髄がこの演出に表れていると感じ、震えました。
闇の中から光を作り出し、その光を人々に与え、同時に人々からも奪いながら、一体化しながら、強く大きく輝く人。これ以上彼女にふさわしい黒燕尾姿の彩りはありません。



おわりに

 短くまとまるのでは?と冒頭で言ったのに、結局まあまあな量になってしまいました🥺

 まあ、つまりは、私は、望海風斗という男役が、だいきほコンビが大好きなんですね。
 ずっと歌を聴いていたいのはもちろん、ふたりにしか作り出せない、苦しく重く、だけどどこまでもやさしい愛の世界が大好きでした。ふたりの雪組の大劇場公演を全て見届けられたのは、本当に幸せなことです。

 もっと今回の公演についても語りたいし(特に大世界ね!!!映像配信ならじっくりみれるかと思いきや普通に目が足りませんでした、なぜ?歌姫・真彩さまが美女シンガー二人の腰やお尻を撫で回してたのがいけないんですね!!そもそも望海風斗×上海はけしからん!!!生田先生天才!!!)、ラストデイカテコのだいきほの可愛さ尊さについても言いたいことはあるのですが、そもそも今日は13時半から19時近くまで約五時間半にかけて(!!某元月組トップスターさまも真っ青のギネス記録では)、奪われ尽くされたので、もう限界です。

 最後になりましたが、改めて雪組『fff/シルクロード』大千秋楽おめでとうございました。
 雪組の皆さま、特に望海風斗さん、真彩希帆さんはじめ退団者の皆さまとファンの皆さま、本日はどうかゆっくり休めますように。(私たちもね!!)
 そして、また近いうちに元気なお姿が見れますように。

「人生は幸せだった」——最高の夢をありがとうございました。

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