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ヘッドライトカバーのリバースエンジニアリング

とある旧車のヘッドライトカバーにヒビが入ってしまいこれを再現したいというご相談を頂きました。今回は車種やお客様のお名前が分からないようにすることを条件に公開の許可を頂きましたので事例としてご紹介したいと思います。

とにかく古い車ですから部品は手に入りません。そのため現物からデータを作って製作する必要があります。しかも、そこは旧車、手作業が入っているのでしょう、微妙に形状が対称でなく、取付の穴位置に関しては位置も径も対称になってないのは明らかでした。というわけで、左右それぞれに対してデータを作成しなければなりません。

現物をスキャンする

まずは何はともあれデータを作らないと話になりませんので、現物をスキャンにかけます。
ヘッドライトは本来透明ですがそのままだと光を透過してしまい上手くスキャンできないのでサーフェイサーを吹いて灰色にしてからスキャンをかけます。また、より正確なデータを作成するためにスキャンは様々な角度から行います。

データを補正する

こうしてスキャンしてできたデータがこちらになります。

このスキャンデータはそのままでは使うことができません。
まず、忠実に現品を再現していますので画像では分かりづらいですが、ひび割れや細かい傷などがそのままデータに残っています。これらを除去する必要があります。
また、スキャンデータはSTLデータといって基本的にそのままでは加工することができません。そのためデータをCAD化する必要があります。
というわけでCAD化したデータがこちらになります。

このデータで具体的な製作にはいります。
ちなみに3Dデータに付いてはこちらの記事をご参考ください

まずは試しに試作してみる

いきなり製品として製作してしまうと万が一、相手に嵌らない、ディテールがおかしいとなった場合に大きな損害が出てしまいますので、まずはFDM式の3Dプリンターで試作を作成します。

写真の左が現品、右がFDMによるプリンターになります。
この試作品で相手との嵌合や全体のディテールを確認し、問題ないことが確認できましたのでいよいよ本番の製作にはいります。

製品を制作する

いよいよ製品を製作するわけですが、製作方法は様々あります。今回の候補に上がった製作方法が、切削加工真空成形射出成形の3種類でした。

【切削加工】四角いブロックから削って形状を作成します。型は不要ですが今回のような形状の場合、大き目なブロックを用意してその殆どを削る必要があります。
真空成形】シート材と型の間を真空状態にして型に吸いつけることで成形する方法です。型は片側のみで済みますし、材料のロスも少なく済みます。ただし、常に人がついていないといけません。また、他の方法に比べて寸法精度が落ちます。
射出成形】溶かした樹脂を型に流し込んで形状を成形する方法です。上下の型が必要になり、型代がかなり高額になりますが、精度は良いです。

加工方法にはそれぞれ一長一短ありますので、必要な数量や求められる精度、かかってくるコストなど様々な要因からベストな方法を選択します。
今回は数量と精度のバランスから【真空成形】を選択しました。こうして真空成形で完成した製品がこちらになります。

納品後、実機に嵌ったとのご連絡をいただき無事に納品完了となりました。