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2024.2月読了【名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―】


カルト宗教の大量殺人作品。
タイトルからいくと探偵側が調査しに行って”いけにえ”にされてしまうのかなと思っていた。


病気や怪我など存在せず、失った両足すらもまた生えてくる【奇蹟のジョーデンタウン】
失った右腕もよみがえるし、失われた神経ですらよみがえる、そんな奇蹟のような街で次々と不審死が続く。


「信仰」と「現実」の齟齬に対して新たな解釈を生み出す「信者」。
信仰者と余所者、2通りの推理が繰り広げられていく。
謎を暴いたと思えばまた謎を暴き、二転三転させていく。
「信者たちが納得できるロジック」と「通常世界で通用するロジック」で描かれていててても面白かった。


大塒とりり子を合わせると1つの事件(正しくは3つの事件)で3回解決をする。
更に物語は続き、結果的にはかなりの『多重解決』により物語は幕を閉じる。


ジム・ジョーンズ率いるカルトが実際に起こした、900人以上の死者を出した集団自決をモチーフにした作品。
何度もなぞ解きをするという面で難しかったというより、信仰する宗教により物事の見え方に齟齬があるという面で難しかった。


失った四肢も神経も蘇るし、戦争で負ったやけどの跡も治る。
だからこの街には事故も病気も存在しない。してはいけない。
「奇蹟」を信じる彼らにとって街内での事故や病気は許されない。
許してしまったら「奇蹟」は存在しないことを認めることになる。


でも実際に彼らの失われた四肢は失われたままだし、神経もやけどの跡も一目みて治っていないことが分かる。
だからこの街にも事故は起こるし病気も存在する。


信者たちは集団幻覚をみているのか?
彼らにとって信じるべきものは「奇蹟」なのか「現実」なのか。


内容はとても面白かったけど作中の表現が少し苦手な部分があると思った。
げろとか久々に聞いた。嘔吐でもよかった気がするけどげろが正しいんだろうな。


とても極端なカルト集団が描かれているけど、誰にでもなりえることだなとおもった。
大塒に関してもある思想を貫くために起こした行動があったわけだし。


テレビで見かける宗教の解散とか解散させて終わりじゃないよね。
ここには失った四肢が戻るとか極端な例が描かれているけど、心の拠り所にする人は多いだろうし、それがあるおかげで今を生きてる人もいる。


はい、解散。はい、解決。とはいかないだろうね。


もしこの作品の人たちが自決を選ばず外の世界に放り出されてしまったら到底受け入れられない現実に直面してしまうし、それをフォローする手立てはあったんだろうか?


事後のフォローが出来ないのであれば彼らはまた奇蹟の街を作り上げるだろうし、解散や集結を続けるたびに絆は固くなる気がする。

解散させたとして、その後どういった支援ができるのか、どこまで寄り添うことが可能かはっきりさせないといけない問題なんだなと思った。

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