先手必勝

えー、心に刺さる言葉は人それぞれですが、あなたの好きな言葉は何ですか？

－－－

懐かしい人からの着信で、車を路肩に停めた。
「おう！久しぶり」なんて気安く電話に出たが、返事もなく無言のまま。
「おーい」と何度も声をかけるけど、やっぱり返事がない。

何気なく見たルームミラー。後部座席に人影が映る。
ハッとして振り向くが誰もいない。恐る恐るまたルームミラーを覗くと、そこに電話の相手が座っている。けど振り向くと座席には誰もいなかった。
怖くなって電話を切った。するとミラーにも姿は映らなくなった。

電話の相手は、当時好きだった女性で、何度かデートのように出掛けたりしたが、結局いつ間にか彼氏ができてて疎遠になって……

久しぶりの電話でテンションが上がったが、一気にまた下がった。

でも、電話がかかって来ると言うことは……

また後でかけ直してみようと思い家路を急いだ。

しばらく走っているとカーブで対向車が曲がりきれずに正面衝突。
やっぱり今日はついてない。
車から出れなくなって、骨も折れて、救急搬送された。

事故の相手は軽傷だったようで見舞いに来てくれた。
相手は知ってる男だった。あの時の電話の女性の彼氏だった男。
よくよく話を聞くと、事故の日に彼氏にも電話があって、ルームミラーに現れたらしい。
怖くなって、急いだ結果があの事故だ。しかもその日は彼女が自殺した日だったという……


どう言うつもりで俺と彼氏のとこに彼女は現れたのだろう。

って言うか、何より彼女が自殺していたことがショックだった。
告白していればよかったなと後悔する。
俺と付き合っていれば違う未来があったのだろう。

入院中のベッドの上で、そんな妄想に耽る。

そういえば『恋は先手必勝』なんて誰かが言ってたけ。

大部屋を仕切るカーテンが引かれた。
「検温の時間ですよ」
とカワイイ看護師さんが入ってきた。思わず俺は
「俺と付き合ってください」
とカワイイ看護師さんに告白した。

了