大塚亜希『レインドロップ』
大塚亜希さんの第一歌集『レインドロップ』(旭図書刊行センター)を拝読いたしました。
人生を感じる歌群だと思いました。
印象に残った歌を引きます。
長針が少しずれているくらいならまだ時計として使えますが、短針がずれていると流石に使えませんね。それでも主体はその腕時計を簡単に手放せません。狂っているのはこの時計ばかりではない。自分だって、他人だって、社会だってどこか狂いながら、均衡を保って続いているのだと。下の句がとても印象に残る一首でした。
微笑ましい景とも取れます。しかし相手が帰ってくるまでは主体は暗さ淋しさと共に過ごしていたのです。大切な相手になるべく明るい自分を見せたい。疲れて帰ってくる相手に余計な負担をかけたくない。気遣いを感じる一首だと思いました。
人は完璧ではいられません。何かをすれば、失敗はつきものです。それを失敗のまま出してしまうのか、なんとか見せられる形にして表に出すのか。主体は「誤魔化し」と少しマイナス寄りにも取れる考えのようです。ですが私は誤魔化せるようになるのも立派な「技術」だと思います。一つ一つの失敗を悔やむよりも、どうリカバリーするかを考えて思考を切り替えられる人になりたいなぁとこの歌を読んで思いました。
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