もくめ

2020年11月から短歌を始めました。歌集の感想などを書いていく予定です。よろしくお願…

もくめ

2020年11月から短歌を始めました。歌集の感想などを書いていく予定です。よろしくお願いいたします。X→mokume_88

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    歌集を読んで評を書いています。

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    色んな方々の短歌を読んで感想を書いています。

最近の記事

埜中なの『再上映』

埜中なのさんの歌集『再上映』を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 人によるとは思いますが、ひとり暮らしをしていると、なかなかセットの食器を買わなかったりしますよね。 自分の好きなデザインの食器をぽんっと買ってしまったりなんかして。 たまに食器棚を覗くと、ばらばらの食器が並んでいる。 下の句は人間にフォーカスがあたります。 この歌では人間は形の違う「うつわ」としてとらえているようですね。 それぞれが、それぞれの役割をきちんと全うしているのであれば、形は問われない。 下

    • 真島朱火『星に願いが届くころ』

      真島朱火さんの歌集『星に願いが届くころ』を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 歳を取った自分を見つめるということは、積み重ねた後悔を振り返ることでもあるのかもしれません。 主体の具体的な後悔は描かれていませんが、人と関わる上での後悔なのではないかと読み取りました。 やればよかったこと、やらなければよかったこと、やりすぎてしまったこと。 後悔を見つめながら自分を祝うことができる主体は、誠実で強い方だなと思いました。 掃除機で異物を吸った時の、独特の感触ってありますよ

      • 鈴木智花『いつか骨まで海になるまで』

        鈴木智花さんの歌集『いつか骨まで海になるまで』を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 缶詰を開けた時に、フチぎりぎりまで入っているシロップですね。 誰かに対する主体のやさしい気持ちが、あふれんばかりに詰まっています。 缶詰を静かに開けるには、少し力がいりますね。 やさしさを誰かに手渡すためには、強さも必要なのかもしれませんね。 語感がとてもよくて、口ずさみたくなるお歌です。 家族関係は強固なようで、実は線引きが曖昧です。 私は、私の、私に、私のもの。 家族は私のもの

        • なべとびすこ『クランクアップ』

          なべとびすこさんの『クランクアップ』を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 上の句の冗談めいた言い方と、下の句の切実さの落差に惹かれました。 主体にとっては、来てほしい時に誰かが来ることは、雨を呼ぶことくらいありえない現象なんですね。 「来てほしい」の「ほしい」がひらがなであることで、より純粋な願いという印象を受けました。 塗り薬や飲み薬を常用するのが当たり前になった日常で、たまに思ってしまうようなぁと共感しました。 自分の回復力だけで健康を保ちたいという現実的な読

        埜中なの『再上映』

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          ネプリ『夜型 vol.1』

          ネプリ『夜型 vol.1』(作者:甲斐さん)を拝読しました。 短歌連作と詩が載っている作品です。 印象に残った歌を引きます。 眼の中の硝子ってなんだろうとか、光ったら相手は本当に喜ぶのかとか、そんなことはどうでもよくて、まばたきをする頻度くらい喜ばせたい相手が主体にはいるということが大切なのだろうと思いました。 まばたきは基本無意識にするものです。 無意識にする動作で相手を喜ばせようとする主体。 相手を喜ばせる機械になってしまいたいと、主体は考えているのかもしれませんね。

          ネプリ『夜型 vol.1』

          ネプリ「夏机・雨宮琴陽 いちごつみ日記『旅路』」

          ネプリ「夏机・雨宮琴陽 いちごつみ日記『旅路』」を拝読しました。 短歌と日記で構成されている作品です。 印象に残った歌と文章を引きます。 自分で自分を傷つける言葉を、頭の中で繰り返してしまうことってありますよね。 しんどさでぐちゃぐちゃになって、止められなくて。 自分を否定することは案外簡単で、しかもクセになりやすいからやっかいです。 自分から距離を取って、冷静に、公平に見ていくこと。 「より優しい視線」を自分に向けること。 とても難しいことだと思います。 でもそうやって自

          ネプリ「夏机・雨宮琴陽 いちごつみ日記『旅路』」

          ネプリ『短歌カフェ1号店』

          短歌カフェ1号店に入店しました。 さっそく注文したいと思います。 お店がおすすめしているコーヒーが口に合わなかったらどうしましょう。 居心地も良いし、行きやすい場所にあるから、行きつけのお店にしたいのに、「当店のスペシャルブレンド」だけは好きになれない…。 この店の主役とも言える存在と馴染めない悲しさ。 拒絶されているような寂しさ。 下の句の言い回しにどうしようもない疎外感を感じて印象に残りました。 ひらがなの「あますぎる」が、柔らかながらとんでもない甘さを突きつけてくる

          ネプリ『短歌カフェ1号店』

          堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』

          堂園昌彦さんの『やがて秋茄子へと到る』(港の人)を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 自分から遠いどこかの草原で花が咲く。 自分とは関係のないところで、常に何かが起こっている。 それを自分は決して見ることはできない。 関係することのできないたくさんの出来事がこの世にあるという、途方もない恐怖が表現されていると思いました。 「護られて」という表記が印象に残ります。 「護る」という表記は、「何かをかばいまもる」という意味合いが強いそうです。 人間の身体が動くこと、生活

          堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』

          ネプリ『Supplement vol.0』

          ネプリ『Supplement vol.0』(瀬生ゆう子さん、山田香ふみさん、桜庭紀子さん)を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 ぎゅうぎゅうのバスや電車って本当に辛いですよね。 高校生の頃なんかは、遠慮を知らなかったので、友達と「せまいせまい!」と言い合ったりしましたが、大人になった今は素知らぬ顔(できてるかしら?)で乗っています。 あの空間では、「全員が辛い」という謎の連帯感が生まれます。 主体も、周りのみんなも、黙って耐えてえらかったから、主体はみんなに春を配り

          ネプリ『Supplement vol.0』

          岩倉曰『ハンチング帽のエビ』

          岩倉曰さんの『ハンチング帽のエビ』を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 あるある!と嬉しくなりました。 私もこの間、「コーヒーミルク」が聞き取れなくて聞き返したんですけど、同じ声量と速さで返されて、一拍置いて脳が追いついて理解しました。  マニュアルっぽい対応だと、起こりやすい気がします。 伝わるように言っていると思っている人と、聞き取りたいのに聞き取れない人。 すれ違いは切ないものですね。 こちらも分かる〜!と思いました。 旅って自由なイメージですが、特に観光地

          岩倉曰『ハンチング帽のエビ』

          ネプリ『珈琲日和 Vol.14』

          ネプリ『珈琲日和 Vol.14』を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 上の句に込められている、「あなたの触れたものに触れたい」という、とても純粋な願いに惹かれました。 同じコーヒーを飲むことではなく、その前段階の「ボタンを押す」にフォーカスを当てているのが面白いなと思いました。 下の句の柔らかさに惹かれました。 「ぬるくなったと思われる」なので、ぬるくなったかどうかまだ分かりません。 でも、主体は細かく確かめずにカップを手で包みます。 主体の手にはまだ少し熱かった

          ネプリ『珈琲日和 Vol.14』

          ネプリ『第一回 不穏婦人会』

          ネプリ『第一回 不穏婦人会』を拝読しました。 印象に残った歌を引きます。 10,000ピースのジグソーパズルでしょうか。 一つとして同じものはなく、全てが等しく全体を構成する要素になっている。 意味のないものがないということは、余白や余裕がないということでもあります。 余分なものが入るから、人生は面白くなる。 意味のあることだけをしていたら、つまらない。 そんなメッセージを受け取ったような気がしました。 自分の境界を守るって難しいですよね。 親しい人であるならなおさら、相

          ネプリ『第一回 不穏婦人会』

          ネプリ『さざなみ紀行 Vol.0』

          ネプリ『さざなみ紀行 Vol.0』(石村まいさん、早月くらさん)を拝読しました。 さざなみ紀行は、短歌+エッセイ+写真で構成されています。 今回は、エッセイから印象に残った文章を引きます。 鳥取砂丘いいですね。 いつか行ってみたいです。 私もテーマパークみたいなものを想像してしまっていて、この記述に惹かれました。 「砂丘」は自然にあるんですものね。 囲いも何もなく、ただそこにある。 そこが観光地として有名であることと、自然そのままであること。 それを両立させようと努力してい

          ネプリ『さざなみ紀行 Vol.0』

          ネプリ『Vol.2 あめふる』

          ネプリ『Vol.2 あめふる』(八幡氷雨さん、鈴木智花さん)を読みました。 印象に残った歌を引きます。 カーナビが案内するのは、あくまで道順です。 運転手が目的地に着くことだけを目的に、設置されているからです。 それが主体には不思議にも感じてしまっている。 普段なら気にならないものに、違和感を感じる。 それは、主体に何らかの変化があったからでしょう。 下の句の「ルートを外れてもなお」は、実際の運転のことではなく、主体の人生と読みました。 相手が人間であれば、主体の変化に気づ

          ネプリ『Vol.2 あめふる』

          笹井宏之『えーえんとくちから』

          以前に、短歌にまつわる本を紹介するビブリオバトルに参加しました。 ビブリオバトルは、誰でも開催できる本の紹介コミュニケーションゲームです。 ルールは、発表参加者が本を選んで集まり、順番に1人5分間で本を紹介します。それぞれの発表の後に、参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分間行います。全ての発表が終了した後に、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員が1人1票で行い、最多票を集めた本をチャンプ本とします。 私は、笹井宏之さんの『えーえん

          笹井宏之『えーえんとくちから』

          服部真里子『遠くの敵や硝子を』

          服部真里子さんの『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房)を読みました。 印象に残った歌を引いていきます。 「あなたの声」は、途方もなく柔らかく、優しいのではないかと想像しました。 「誰を呼んでも」ということは、主体を呼んでも、カラスアゲハが来てしまうのでしょう。 困った顔で、でも決して拒むことなくカラスアゲハを指に止まらせるであろう「あなた」。 不器用ともいえる「あなた」を、主体はとても愛しく思っているのではないでしょうか。 用心深く、美しい攻撃性だと思いました。 主体は差し違

          服部真里子『遠くの敵や硝子を』