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大塚亜希『くうそくぜしき』

大塚亜希さんの『くうそくぜしき』(ながらみ書房)を拝読いたしました。
印象に残った歌を引きます。

両思いであることふっと確かめて夫婦の春の朝の平らか

初々しさを感じるお歌で可愛らしいなぁと思いました。
相手の想いが自分に向いていること、また自分の想いが相手に向いていること。
それを約束しているから二人は夫婦になって、日常を共にしているのですよね。
この歌の朝には、きっと些細で、でもとてもあたたかな会話を交わしたのだろうと想像しました。
主体のある朝がそういう平穏な時間であったことを嬉しく思いました。

「いいことがあるよ」と聞こえその前に思っていたこと忘れて、桜

主体は少し沈んでいたのかもしれませんね。
会話の相手が言ったのか、テレビから聞こえてきたのか、通りすがりの人の会話が耳に入ったのか。
なんとなくその言葉は主体に向けられた言葉ではなかったのではないかと感じました。
それでも、主体にとっては前向きになるきっかけになる言葉でした。
何気なく口に出す言葉が思いもかけず誰かを掬い上げることがある。
結句の桜がぱあっと目の前にピンクに広がって、ほのかに明るい気持ちにしてくれる一首だと思いました。

またひとつ薄青の糸を使いきり青の世界が増えるまたひとつ

主体は恐らく青色が好きなのでしょう。
自分で何かを作り出すことは大変だけれど素敵なことです。
青の糸が何かに生まれ変わって、そして誰かの手に渡って使われ続ける。
世界を自分の好きな色に少しずつ変容させていく。
好きなものを増やすのを自分から始めていく。
なんて素敵なことだろうと思いました。


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