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斉藤志歩『水と茶』

斉藤志歩さんの句集『水と茶』を拝読しました。
印象に残った句を引いていきます。

葉牡丹やねむりぐすりは舌に丸し

「葉牡丹」は冬の季語だそうです。
【アブラ菜科の越年草でキャベツの変種。クリーム色や赤紫色などがあり、牡丹のようだというのでこの名が付いた。正月用の生け花や鉢植として観賞される。】とのことです。

ねむりぐすりを飲むという事は、不眠気味なのでしょうか。
「舌に丸し」という言い回しがやさしくて好きです。
葉牡丹を検索した写真は、こんもりしていて、「花開くキャベツ」という感じでした。
葉はちょっとぎざぎざしているようにも見えました。
主体の心も不安でささくれ立っているのかなぁと想像しました。

蝶の来てそれを告ぐべき人の留守

「蝶」は春の季語です。
【蝶は彩りあざやかな大きな翅をもつ昆虫。花の蜜を求めてひらひらと舞ふ。】とのことです。
他の季節で見かけるものは、夏の蝶、秋の蝶、冬の蝶という言い方になるそうです。

ちょっとした寂しさを、とてもうまく描いている句だと思いました。
虫が苦手な人でなければ、蝶を見かけるとのどかな気持ちになるのではないでしょうか。
その気持ちをおすそ分けする相手がいつもはいるのに、今は留守にしている。
帰ってから言えばいいのではありませんよね。
今ここで、飛んでいる蝶を一緒に見て、「春だねぇ」という会話がしたいのだと思いました。

雹やんで雹の話の多き街

「雹」は夏の季語です。
【積乱雲から雷雨に伴って降ってくる氷塊。大きさが鶏卵大のものもあり、人や動植物に被害を与えることも珍しくない。】とのことです。

雹が降るのは珍しいことですよね。
雹が降っている最中は、慌てて屋内に避難したりして忙しいです。
止んだ後に、「さっきはすごかったね」という会話が生まれる。
結句の「街」が、視点を大きくしつつ、その現場を限定していると思いました。
また、「人」と直接書かなくても、人の言動を表すことができるのだなぁと思いました。

戸を隔てシャワーの歌は二番に入る

「シャワー」は夏の季語です。
【夏は汗をかきやすいので、入浴をシャワーですませることも多い。】とのことです。

シャワーを浴びている相手がとてもご機嫌なことが伝わってきて、微笑ましい句だと思いました。
落ち込んでいる時や調子が乗らない時は、一番だけだったり、歌わなかったりするのかもしれませんね。
「戸を隔て」てすぐそばにいる主体に聞こえてもいいと思っている、そういう二人の心の距離の近さも感じられて素敵な句だと思いました。

包丁がしあはせさうに桃に沈む

「桃」は秋の季語です。
【桃の実は中国からわたり、奈良時代から栽培された。水蜜桃から品種改良され種類は多い。早桃は六月下旬から出荷され、水蜜桃や白桃は八月中旬に出荷される。】とのことです。

包丁を擬人化していますね。
包丁がこの上なく気持ちよさそうに、桃に沈んでいきます。
みずみずしい桃のジューシーさも伝わってくる気がします。
こういう句が詠めたらいいなぁと思ってしまいました。
好きな句です。

カービィは星に座りて冬あたたか

「冬あたたか」は冬の季語です。
【冬のさなかの暖かい日のこと。つめたい風も吹かない穏やかな日和。冬の恵まれた一日である。】とのことです。

カービィは任天堂のゲームのキャラクターですね。
丸くてピンクでぽよぽよしている可愛いキャラクターです。
「星のカービィ」というタイトルにもあるように、カービィは星に座っています。
この句を読んだ時、「こんなのありなんだ!」と衝撃を受けました。
カービィは戦って進むゲームですが、カービィ自体はのほほんとしたキャラクターなので、「冬あたたか」という季語にもぴったりだと感覚で分かります。
なんて平和でかわいい句なのでしょう。
こちらも好きな句です。

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