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石村まい・武田ひか『囁き記』

石村まいさんと武田ひかさんの『囁き記』を拝読しました。
印象に残った歌を引きます。

観覧車ひろびろまわる少しだけ遅くなるよう心で太る

武田ひか

観覧車が悠然とまわっています。
ひとつのゴンドラにカメラはズームアップしていきます。
そこには一組のカップルが座っているのだと読みました。
観覧車のまわる速度は一定です。
しかし主体は少しでも遅くなって欲しいと願っています。
相手と二人きりでいるこの時間が、永遠に続いて欲しいと思っているのでしょう。
結句「心で太る」がユーモラスな言い回しですよね。
自分が重くなれば観覧車の速度が遅くなるのでは?という発想が面白かわいいです。

ノックしてもしなくてもいい扉たちをたくさんつくってきみと暮らそう

石村まい

主体がきみにこころをゆるしているのがわかりますね。
「ノックしてもしなくてもいい扉たち」が素敵だなぁと思いました。
ノックするということは、相手に入ってもいいかい?と合図を送ることです。
それをしてもいいし、しなくてもいい。
お互いを縛っていない関係です。
「扉たち」は、実際に二人が住む家の扉と解釈してもよいですが、相手の心のパーソナルスペースに踏み込む時のことを表していると思いました。
閉ざした扉の向こうには、お互いの知らない顔が住んでいます。
その扉をノックして入ってもいいし、ノックせず入ってもいい。
風通しのいい関係性がとてもよいなぁと思いました。

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