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あの日の台所

晴れた日の夕方。
思い立って、梅シロップとしそシロップを作った。

岩手にいた頃は、庭でとれた梅としそを使って毎年作っていた。梅酒も梅干しも手づくりしていて、床下収納には去年作ったものも残っていたりして、保存食やら手づくり調味料やらを作りがちな母に姉が「これいつの?」と聞くみたいな、そんな台所だった。
干している最中のあたたかい梅干しがいちばん美味しかったこと。小屋に吊るされた干し柿。クッキー型がたくさん入った錆びた缶。染めもの用に集めている玉ねぎの皮。誕生日のたび嬉々として届けられる、曾祖母のお赤飯。

母を手伝っていた頃みたいに梅のへたをぷちぷち取って、しその紫色がはねた服をあわてて洗って、気もちはちょっぴり岩手に帰る。ここは東京の台所。庭でしそを摘むかわりにスーパーに行って、「どうやるの?」と聞くかわりにスマホをひらく。遠いなあと思いながら、同じ味ができあがる。あの日の台所は、たぶんきっと確実に、東京の、この台所につながっている。レシピもネットでわかる時代だけれど、季節の台所しごとを近くで見られた子ども時代が、今になってありがたいなあと、思ったりする。

私も来年の2月には20歳。梅酒が飲める年になる。
自分のための梅酒を仕込んで、梅シロップで夏を越します。

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