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社会的企業の実例(英国編その1)

社会的企業は、世界的に広がりを見せていますが、近年、法的な意味での仕組みの整備は、英国が一番進んでいると思われます。アメリカでも先に紹介したように、Benefit Corporationという制定法による仕組みを有していますが、制定法による社会的企業については、英国の方が活発です。

英国には、Community Interest Company (CIC)と呼ばれる社会的企業の他、Community Benefit Society (CBS)などという法的仕組みが用意されています。

CICは、英国の会社法に定めのあるもので、株式会社または保証有限会社(company limited by guarantee:株式会社と類似しているが、責任が株式(出資額)に限定されるのではなく、解散時 の最終的な保証人と保証額が定められている会社)の形態となります。その形態で運営され、会社の利益を追求し、配当もできますが、会社の一定の資産(その会社が属する地域にとって有益な土地、建物など)について譲渡制限がかかります。

また、CICは、定款で社会的な目的を記載しなくてはならず、これを第三者機関がモニターすることも法で定められています。

このCICの制度を使って何をするか、社会的な目的を持った企業とはどのようなものかですが、わかりやすい例が地域のフットボール(サッカー)・クラブでの展開です。

このCICは、もちろんフットボール・クラブのために用意された制度ではありませんが、有名クラブであるマンチェスター・ユナイテッドの買収事件をきっかけにして、フットボール・クラブに積極的に利用して行こうという機運が盛り上がりました。この辺の経緯について、興味のある方は、以下リンクの拙論「市場と市民文化の衝突 -市民型企業のコーポレート・ガバナンスを考える (英マンチェスター・ユナイテッド買収事件を題材に) -」の5.3.4項をお読みください(無料です)。

https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=9522&item_no=1&page_id=13&block_id=21

そして、実際のフットボール・クラブCICの実例には次のようなクラブがあります。

このプレスコット・ケーブルFC(元はプレスコットFCと名乗っていたようです)は、イングランドのマイナー・リーグ所属のチームで、有力チームとは言えないようですが、1884年のクラブ設立という歴史のあるクラブです。

HPにあるように、1株5ポンドで誰でも株を買うことができるようです。

通常の株式会社ですと、株式を公開した場合、買収等大株主の移動があった場合に、経営陣の入れ替えなどを通じて、会社の戦略が大転換を迫られることがあり得ますが、CICの場合、定款で定めた会社目的に沿った経営をしなくてはなりませんし、会社資産の切り売りなどもできない建付けとなっています。

CICのこうした仕組みから、英国では地域のフットボール・クラブがCICに改組したり、あるいは新たに設立されたCICが地域のクラブを所有するということが行われています。

株式会社としての利益と地域の利益など社会的な利益を同時に追求することを可能とする仕組みなのです。

なお、英国には、他にもコミュニティ・ベネフィット・ソサイエティ(Community Benefit Society)という組織形態も用意されています。これについても次回に説明します。


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