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[report]『時間旅行』+『記憶』『ちゃわんやのはなし』(東京都写真美術館)

※ タイトル画像 大久保好六《「大東京の丑満時」「アサヒグラフ』昭和8年11月15日号》(部分)1933 東京都写真美術館蔵


開催情報

『TOPコレクション 時間旅行 千二百箇月の過去とかんずる方角から』
場所:東京都写真美術館 3F 展示室(東京都目黒区)
開催日:2024.4.4.thu-7.7.sun
入館料:700円(一般)※ぐるっとパスで入場可

内容:宮沢賢治『春と修羅』序文を手がかりに、1924年を出発点とし、雑誌のバックナンバーやポスターなどを交えながら「時間旅行」をテーマとするコレクション展。

『記憶:リメンブランス ― 現代写真・映像の表現から』
場所:東京都写真美術館 2F 展示室(東京都目黒区)
開催日:2024.3.1.fri-6.9.sun
入館料:700円(一般)※ぐるっとパスで一般料金の140円引

内容:写真・映像は、人々のどのような「記憶」を捉えようとしてきたか。

『ちゃわんやのはなしー四百年の旅人ー』
場所:東京都写真美術館 1F ホール(東京都目黒区)
上映スケジュール:2024.5.25.sat-6.14.fri 13:00/15:40 (上映時間 117分)
当日券(座席指定券):1800円(一般)※写真美術館の有料チケットの提示で1500円

内容:薩摩焼、萩焼、上野焼等は、豊臣秀吉 朝鮮出兵の際、連れ帰った朝鮮人陶工にルーツを持ち、今もなおその伝統を受け継いでいる。
薩摩焼 十五代 沈壽官を中心に、日韓の陶芸文化の交わりの歴史、伝統の継承とは何かを浮かび上がらせる。

(とても偏った)登場人物表

  • 杉浦非水ひすい(1876-1965)
    日本におけるグラフィックデザイナーの草分け。三越呉服店 初代図案部主任。

  • ロール・アルバン=ギヨー(1879-1962 )フランス

  • 宮沢賢治(1896-1933)
    詩人、童話作家、教師、農業指導者。

  • 堀野正雄(1907-1998)
    写真家。新興写真の旗手と呼ばれた。

  • 大束元(1912-1992)
    写真家

  • 桑原甲子雄(1913-2007)
    写真家

  • W.ユージン・スミス(1918-1978)アメリカ
    写真家

  • 原美樹子(1967-)
    写真家。カメラのファインダーを見ずに撮影する「ノーファインダー」のスタイルで知られる。

単語

  • 【ピクトリアリズム(絵画主義)】欧米と日本において主に19世紀末から20世紀初めに隆盛した芸術写真の表現傾向。柔らかく濃淡に富んだ画質が特徴で、絵画的な雰囲気のある写真表現。(中略)作家たちは手仕事的な巧緻さを追求し、ゴム印画をはじめとするピグメント技法や「雑巾がけ」と呼ばれる修整法によってプリントを制作した。「絵画と写真の折衷様式」としてモダニズム写真運動の中で批判的にとらえられたが、近年その歴史的意義が再評価されている。(展示室内キャプションより)

  • 【スペインの村】W.ユージン・スミスによる「フォト・エッセイ」の代表作

  • 【雑誌『LIFE』】1936年アメリカのタイム社が創刊した大衆向け週刊写真雑誌。1972年末に休刊。現在はWebサイト上のフォトアーカイブとなっている。

  • 【雑誌『アサヒグラフ』】1923年東京朝日新聞社によって出版された写真雑誌。2000年に休刊。

章構成覚書

『TOPコレクション 時間旅行 千二百箇月の過去とかんずる方角から』

わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)…

宮沢賢治『心象スケッチ 春と修羅』序文より

プロローグ

第一室 1924年-大正13年
コレクションより、この年に制作・発表された写真作品を紹介。
宮沢賢治はこの年、生前唯一の詩集である『心象スケッチ 春と修羅』を自費出版した。

第二室 昭和モダン街
1930年代東京の街の写真、広告写真、広告ポスター、杉浦非水の昭和初期のモダン・デザインなど。

第三室 かつて、ここで ー「ヱビスビール」の記憶」
現在、東京都写真美術館が建っている土地の記憶に思いを馳せる。
1889  東京府下荏原三田村(現・目黒区三田)に日本麦酒醸造株式会社がビール工場を設立
1890 「恵比寿ビール」を発売
1990 工場解体

第四室 20世紀の旅—グラフ雑誌に見る時代相
戦前から戦後までの雑誌『LIFE』『アサヒグラフ』のバックナンバーより

第五室 時空の旅—新生代沖積世しんせいだいちゅうせきせい
宮沢賢治の言葉にインスパイアされた、時間と空間の多層的な世界を形にしたセクション。
「想像力」「過去からの光」「移動」を感じさせる20世紀と現代の作品たちが「時空の旅」を彩る。

関連書籍

  • 「春と修羅」宮沢賢治

  • 「故郷忘じがたく候 新装版」司馬遼太郎 
    文春文庫 し1ー113
    ISBN : 9784167663148

関連ページ

↓2023.8.18「朝日新聞GLOBE+」の記事(宮地ゆう 朝日新聞GLOBE副編集長)
岩根愛《No Man Ever Steps in the Same River Twice》に登場するハワイのラハイナ浄土院は、2023年8月火災で消失。
奇跡的に御本尊は無事で、現在、寺の再建に向けて寄付を募っているとのこと。

感想

昔の写真を中心としたコレクション展と思いきや、杉浦非水のポスターに「アサヒグラフ」や「LIFE」のバックナンバー、宮沢賢治「春と修羅」初版本まで飛び出すミラクル・ワンダフル・タイムトラベルだった。

時は1924年、宮沢賢治「春と修羅」の出版から始まる。
第一室は、遠い記憶を絵にしたような「絵画写真」などの展示。
第二室の1933年の「アサヒグラフ」に目が釘付けになった

2-3 大久保好六《「大東京の丑満時」「アサヒグラフ』昭和8年11月15日号》(部分)1933 東京都写真美術館蔵

…丑三時の大東京、静まり返った仲見世、駅のルンペン、蠢く人影、お参りにきた女のなまめかしい念仏の声、やがて東の空が白み、グッタリと眠りほうけた街に大きな流れ星が落ちる…
古い雑誌はつい読み耽ってしまう。

2-4 桑原甲子雄《浅草公園六区(台東区浅草二丁目)》<東京和十一年>より 1937 東京都写真美術館蔵
物語の一場面のよう

この時代の写真はモノクロ。色とりどりのポスターが展示を彩る。

2-9 映画『都会交響楽』ポスター 1929 東京都江戸東京博物館蔵
…ニュッと突き出た脚にドキッとする
2-38 杉浦非水 《ヤマサ醤油》1920S 国立工芸館蔵

この美術展の後援は J-WAVE 。
J-WAVE で昭和歌謡は流れそうにないが、タイアップ企画でこの時代の音楽特集があったら楽しそう。

ズラリと並んだ雑誌のバックナンバーは、時代の走馬燈のよう。

2-44 『アサヒグラフ』表紙 東京都写真美術館蔵
"不良の魔手"ってどんな記事か気になる
4-16 『アサヒグラフ』表紙 東京都写真美術館蔵

第三室は、サッポロビール恵比寿工場、今昔物語。

左:目黒のビール工場 (サッポロビール恵比寿工場)
4本の通風筒(カブト煙突)はランドマークだった。
右:「ヱビスビール」を中心とした 大日本麦酒株式会社のビール広告(複製) 明治一昭和初期 1900-1930s 画像提供:サッポロビール株式会社
3-5 宮本隆司 《サッポロビール恵比寿工場》 《建築の黙示録》より 1990 東京都写真美術館蔵

第五室
万華鏡のようなロール・アルバン=ギヨー《装飾的顕微鏡写真》に見入ってしまう。
岩根愛《No Man Ever Steps in the Same River Twice》はハワイに渡った日系移民を描いた映像作品。
予備知識なく上映コーナーに入り最初は立ち見していたが、結局ベンチに座って11分24秒ガッツリ全部見てしまった。

第五室は映像作品が多く、思いのほか鑑賞に時間がかかる。

そして、まさか展示されているとは思わなかった「春と修羅」初版本!
賢治本人の寄贈にも驚く。

宮沢賢治『心象スケッチ 春と修羅』(初版本)1924 明治大学図書館蔵
明治大学図書館所蔵の「春と修羅」初版本には、賢治本人が同館に寄贈したことを示す「著者殿寄贈」のスタンプが押されている。 24年当時、関東大震災でほとんど全ての蔵書を失った同館が再建のため各方面に寄贈を呼びかけて集まったうちの一冊である。 なお同書は経年劣化のため開いた状態で展示することはできない。(キャプションより)

長くなってきたので、以下、簡潔に。

『記憶:リメンブランス ― 現代写真・映像の表現から』

すでに展示終了してしまいましたが…
入り口で配布されている作品リストには作品の解説が記されているが、展示室内はほぼ説明なし。
上記ポスターに使用されている米田知子の作品など、解説なしの初見の印象と、タイトルや解説を読んでから見た印象がガラリと変わる作品が多い。
小田原のどかの作品は、解説がかかれたB2サイズの紙を一人一枚もらえるのだが、テキスト量が多いのと、ものすごく大きいので、紙を読みながら展示を見るのは難しい。(当日なら再入場可なので、一旦、外でゆっくり読むのもありかも)
グエン・チン・ティの映像作品は 35分あるので、時間の余裕が必要。(…そして、30分以上ある作品だと、なかなか椅子が開かず座れない…)
マルヤ・ピリラと Satoko Sai + Tomoko Kurahara の作品は、初見では写真と陶器と出口付近のインタビュー映像が連動していると気づかなかった。
出口の映像を観てから戻って観ると違った気持ちになり、それが不思議に思える。

何度も噛み締めると違う味がするスルメのような美術展?


『ちゃわんやのはなし』
(毎度のことながら)不勉強にて「薩摩焼」のことを全く知らなかったので、大変勉強になった。
117分と上映時間は長め。
「え?ここで終わりなんだ?」というラストではあったが、心に残る言葉やエピソードが多数あった。
映画では全く語らなれなかったが、とても大変な時代を生きたであろう十三代に心を馳せる。

東京都写真美術館ニュース 別冊ニァイズ vol.157〜159

東京都写真美術館での密かな楽しみ、それは別冊ニァイズ。
1Fコインロッカー前に置いてある。
美術展や美術館の裏話や、こぼれ話が垣間見れて楽しい。
vol.157は「記憶」、vol.158は「時間旅行」の特集。
「へぇー、ナルホドそうなんだー」と、これを読んで気づいたことも多々。
「この漫画は取材を参考に構成されたフィクションです」って書いてあるけどね。

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