見出し画像

各国紹介(アジア) カタール

地理に関心がある皆さんへ。各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。
地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。

本日の一国は「カタール」
アラビア半島、ペルシャ湾に突き出る半島に位置する砂漠の国。オイルマネーで潤う世界有数の富裕国です。
では、参りましょう。



カタール国は、ペルシャ湾に突き出した小さな「カタール半島」に位置します。
カタール半島は東西幅90㎞、南北幅160㎞の小さな半島で、半島基部でサウジアラビアと接している他は、ペルシャ湾の海洋部に囲まれています。
国土面積はおよそ1.2万㎢、人口は270万人ほど。ただ、正式なカタール国民は30万人程に過ぎず、あと240万人は一時滞在者、いわゆる出稼ぎ労働者が大多数を占めています。
ちなみに一時滞在者は南アジア系が多く、これは旧宗主国がイギリスであることが大きな理由です。
面積で言えば秋田県と同じ位、緯度は北緯25度付近で、宮古島と沖縄本島の間くらいに位置します。

国名の由来は諸説あり、アラビア語の「水滴」を示す単語から来ており、カタール半島の形が水滴のようであるからその名がついたという説、同じくアラビア語で「点」を表すという説、ローマ時代にこの地域が、この地域にある集落に由来する「Catharrei」と呼ばれていたことに由来するなど。

特徴的なのは、半島基部にある入り江(ラグーン)のKhawr al Udayd(ハウル・アル・ウデイド)。
古くはラクダの放牧地、一時は海賊の拠点でしたが、現在はカタール最大の自然保護区。多様な海洋生物が生息しています。

地形図
Khawr al Udayd

また、半島の西海岸には、ペルシャ湾岸最大級の長さを持つ褶曲山地、ドゥハーン背斜があり、カタール最大級の油田、ドゥハーン油田があります。
原油や天然ガスは、地下水に比べて軽いため、褶曲地形の背斜部に溜まる性質があります。

背斜構造

褶曲地形の背斜部に油井があるという説は1861年に提唱されましたが、当時は相手にされませんでした。
その後1885年に「ホワイトの背斜説」という形で再提唱され、現在も石油探査の大きな指針となっています。
透水性の低い石灰岩などの岩石で構成される背斜部で、砂層に水が満たされていれば、背斜部の高い部分に天然ガスや原油が溜まりやすいという話です。

背斜部に油田やガス田はある(赤色)

なお、国土の9割は平坦な砂地、或いは岩石砂漠が広がっています。
耕地面積は国土面積の1割に満たず、衛星写真で見ても植生らしい植生がほとんど見られないことがわかります。

衛星写真

気候はほぼ全域がBW(砂漠)気候。
ただ、海に面していることもあり、気温の日較差が比較的小さいことが特徴です。
ただ、年間を通しての気温変化は大きく、5月~9月は酷暑で、最高気温が50℃に達することもあります。また、夏季には乾燥した酷暑と蒸し暑い日が交互に訪れ、視界が10mを切るような濃密な霧が発生することもあります。

一方で12月~2月までは比較的穏やかな気候で、夜間がかなり冷え込み5℃くらいになることもあります。
降水は非常に少ない(ほとんどの地域が年降水量100㎜未満)ですが、多くは冬季に降り、短時間の集中豪雨によりワジ(枯れ川)で洪水が起きることもあります。
年間で11月から12月は最も過ごしやすく、2022年、カタールで行われたワールドカップが11月から12月にかけて行われたのはこの気候が大きな理由です。
首都ドーハの1月平均気温は16.8℃、7月は35.2℃、年降水量は70㎜ほどです。

経済は、天然ガス埋蔵量世界3位、産出量世界6位を誇り、原油生産も盛ん。そのため、世界でも屈指の富裕な国です。
国民一人当たりGNIは驚きの55920ドル。日本(およそ41000ドル)を大きく上回ります。

このように巨大な油田・ガス田があるため、極めて富裕な国です。

ドーハの夜景

医療、光熱、教育などは無料で、所得税や消費税もないという、安い税金と充実の社会保障を誇ります。
貿易収支は年間およそ250億ドル(35兆円近い)黒字で、この収入が豊かさを支えています。

日本の対カタール貿易は、圧倒的に輸入超過。
乗用車や機械類などを輸出しているものの、エネルギー資源を金額ベースで10倍近く輸入しているという状況です。日本にとっては非常に重要なエネルギー資源供給国と言えます。

現在の産業構造はエネルギー資源の輸出に依存していますが、後の地を見据え、知識集約型産業の育成など、産業の多角化を図っています。

そんなカタールと日本には面白い縁が。
カタールを含むペルシャ湾岸は、かつて天然真珠の主要産地でした。
ところが、日本で1920年代に養殖真珠の技術が確立され、天然真珠価格が大暴落。 カタールを含む湾岸諸国は主要産業を失い、経済的に大打撃を受けました。
しかしその後、1940年代に石油採掘が始まり、当初は欧米の国際石油資本(オイルメジャー)にその利益を吸い上げられていましたが、1960年の石油輸出国機構(OPEC)の設立など、資源ナショナリズムの高まり、その後の石油利権の獲得により、一躍富裕国に躍り出ました。

そんな歴史を踏まえて、2004年からカタールには巨大な人工島「ザ・パール」の建設が始まり、2018年現在、およそ25000人が住んでいます。

かつての「パールで栄えたカタール」の歴史を思い出させる土地と言えそうです。ちなみに、ここの土地の所有権は外国人も買えるそうです。

民族は、先述の通り出稼ぎ労働者が非常に多く、アラブ系は4割ほど、他にインド系3割、ネパールやフィリピン、パキスタン、スリランカなど、南アジア系を中心に外国人がおよそ6割を占めます。
また、アラブ人にも、ヨルダンなどからの出稼ぎが多く含まれ、カタール人は人口の1割程しかいません。
公用語はアラビア語ですが、アジア系の出稼ぎ労働者を中心に英語も広く用いられています。
宗教はイスラム教徒が多く、8割近くを占めます。つまり、出稼ぎ労働者の奥はイスラム教徒ということが言えそうです。

国土の大半が砂漠であることから、都市人口率は極めて高く、99%。首都ドーハに100万人が居住しています。
発電方式はもちろん火力100%です。

また、イスラム圏で著名な報道機関「アルジャジーラ」は、1996年、カタール首長(サーニ家)の援助を受けて設立された「公正な報道」をモットーとする報道機関で、現在も中東やアフガニスタンなど、各地で活動を続けています。

カタールは国土面積は小さいですが、やはり地理的に見てみると色々なネタがあります。
日本ではワールドカップの話で有名な国ですが、それ以外のネタについても知っておいて損はないかもしれませんね。

今日はこれくらいで。


地理に関する動画を投稿しています。
各国紹介、一問一答、世界の奇妙な国境線、地図の歴史、国当てクイズ(ショート)などのシリーズを進めています。
また、地理系の偉人の業績についても取り上げていく予定です。
是非ご覧ください。


サポートは、資料収集や取材など、より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。 また、スキやフォロー、コメントという形の応援もとても嬉しく、励みになります。ありがとうございます。