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各国紹介(アジア) アルメニア

地理に関心がある皆さんへ。各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「アルメニア」。コーカサス地方に位置する山地と高原の国。古くはこの地に「エデンの園」があると信じられてきました。
では、参りましょう。

アルメニアの位置
アルメニアの国旗

アルメニア共和国はコーカサス地方の南西部にあり、東はアゼルバイジャン、西はトルコ、北はジョージア、南はイランに接しています。
また、北には黒海、東はカスピ海に近いのですが、どちらも水域には接しておらず、内陸国です。
国土面積はおよそ3万㎢、人口は280万人ほど。
森林が少なく、各地を急流が駆け下る山がちな地形です。

国名は、アルメニアで圧倒的多数を占める民族名であるアルメニア人(アーリア系)に由来します。
そして、アルメニアの名自体は、紀元前19世紀頃にこの地に住んでいたハイ族という部族の英雄、アルメナケに由来するという説があります。
アルメナケが率いた部族はハイ族から分派し、現在のアルメニア人の祖先となったと言われています。
ちなみに、現在もアルメニアの国名や民族名で「ハヤスタン」「ハイヤー」という別名が用いられることが稀にあり(基本的にはアルメニアを用いる)、その名残が伺えます。

アルメニアの地形

この地域を走るコーカサス山脈(小コーカサス)は、アラビアプレートがユーラシアプレートに衝突してできたアルプス=ヒマラヤ造山帯(新期造山帯)の山脈。また、アジア州とヨーロッパ州の境界線です。

トルコのアナトリア高原とイランのイラン高原の間に位置するアルメニア高原が国土の大半を占めています。
この高原はおよそ2500万年前に形成され、また、火山活動もあったため非常に複雑な地形。アルメニア最大の湖、セヴァン湖はこの地形の狭間にあります。

セヴァン湖

この湖は海抜1900mに位置し、面積はおよそ1000㎢。高地にある湖ではかなり大きい方です。

国土の半分は標高2000m以上、逆に500mを下回る場所はほとんどなく、最低点でも標高400mほどです。山地・高原の割合がおよそ85%を占め、これはスイスなどよりも高い数字です。

最高峰は北西部にあるアラガツ山(標高4,090m)。

アラガツ山

一見山脈のように見えますが火山です。 地震も多く、1988年には2万人以上の死者を出す大地震が起きたこともあります。

また、アルメニアの国章に描かれているのはアラガツ山ではなく、「ノアの箱舟」が流れついた地とされるアララト山(5137m)です。

首都エレバン市街から見るアララト山
アララト山に流れ着いたノアの箱舟

これは、アララト山が過去、アルメニアの一部だったことに由来しています(現在はトルコ領)。

アルメニアの国章

首都エレバンの位置するアララト盆地は、そのアララト山のふもとに広がります。
アララト盆地は、トルコからアルメニア、イラン、アゼルバイジャンを流れ、カスピ海そそぐアラス川が貫流、火山性の肥沃な土壌を持ち、1万年以上前から人間が活動していたとみられています。
その時代は現在と異なり、豊かな森林地帯だった可能性があります(現在の森林率は15%程度)。

アラス川の流路(南側)

気候は、山岳地帯が地中海、黒海、カスピ海からの風をブロックするためかなり特徴的です。

西部に見られる低地は、山地に囲まれているため盆地状になっており、乾燥気候。
また、内陸で山がちな地形であることから大陸性気候の特徴があり、寒暖差も大きく、標高1,000mに位置する首都エレバンの1月平均気温は-9℃、7月平均気温は28℃、年降水量は280㎜ほどです。
逆に、標高が上がると地形性降雨(山地の風上側で降水量が増える現象)により降水量が多くなる傾向があります。

このような気候と植生は、古代には石造建築を発展させ、例えば世界文化遺産のゲガルド修道院はその代表例です。

ゲガルド修道院

経済は農業と鉱業が主体。
農業はブドウや野菜の栽培、また、ブランデーなどアルコール醸造でも有名です。
鉱産資源は金、銀、銅やモリブデン、ダイヤモンドを産出。モリブデン産出は世界6位です。これらの資源は、火山活動により形成された地域ならではです。
また、工業では先述の醸造以外に、ダイヤモンドの加工などもあります。

しかし、ナゴルノ・カラバフ

など領土問題を抱えるアゼルバイジャンとの対立関係が解消せず、さらに歴史的にトルコとの関係も険悪。
アルメニア人は、第一次世界大戦においてオスマン帝国に虐殺された歴史があります。 その際に国外に逃亡した難民を、老境に入り人道支援に力を注いでいた渋沢栄一が支援したエピソードがあります。

鉱産資源に恵まれるもののエネルギー資源を産出しない(未開発の鉱床はある)ことから、エネルギー資源調達はロシアに依存しています。
その結果、発電の35%を原子力、他に水力20%、火力40%という割合です。また、在外アルメニア人からの送金も大きな収入源になっています。
迫害の歴史により各地に離散したアルメニア人は、各地で技術を習得したため技術力に優れた人材は多い言われており、今後IT産業の発展などが期待されています。

国民一人当たりGNIは4220ドルほどで、コーカサス地方の諸国では低くなっています。
これは、1989年、旧ソ連が建設した原発が停止してしまったことで電力危機が勃発、その後5年間の間にGDPが実に6割近くも減少したダメージが影響しています(現在は、ロシアの援助で新型の原発が再建されている)。

アルメニアで多数派(98%)を占めるアルメニア人は、キリスト教を古くから信仰し、301年、世界で初めてキリスト教を国教とした民族。
現在もアルメニア正教徒が8割を占めます。
また、彼らの用いるアルメニア語は、インド=ヨーロッパ語族において独立したアルメニア語派を形成しています。

また、ロシアの主導するCSTOという集団安全保障条約に加盟していますが、アゼルバイジャンとの紛争においてロシアの支援がないことから、プーチン大統領に冷淡な態度をとるなど、ひと悶着ありました。

このように、歴史的にも紆余曲折、虐殺や迫害の歴史もありながら、資源や人材など発展の起爆剤になりそうな要素も多い国です。
ロシアとウクライナの戦争による影響も間接的に受けているだけに、今後どのような立ち位置を取り、発展を模索していくか注目です。

今日はこれくらいで。

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