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なぜ企業で研究者は嫌われるのか(2) 企画部門から見た研究者(下)

前回、企画部門と研究者それぞれに問題があって研究者が嫌われるというお話を書きました。

今回は、前回のような問題を解決するためにはどうすればいいのか、企画部門と研究者はどう行動すべきなのかということを考えてみようと思います。

計画を立てるとき、企画部門にお願いしたいこと

前回書いた通りですが、新しい研究計画を立案する場合や、現在実用化の候補に挙がっている研究を事業化に向けて企画する場合、必ず研究者に意見を求め、それを受け止めて欲しいと思います。

その時、研究者に聞くのは「お前の研究を商売にする方法を提案しろ」ということではありません。以下3つのことに絞って意見を聞いてください(互いに重なる部分もあります)。

(1) 技術的・科学的な実現可能性

新しい研究計画を立案する場合、それが物理的・生物学的・数学的に実現可能なものであるのか、当社の研究リソースで研究を完遂可能なものなのかを研究者に聞いてください。共同研究先の先生の意見を仰ぐのも吉です。「不可能です」「ナンセンスです」という回答があった場合はそれを受け止めてください。無理なものは無理です。会社の偉い人がやろうと言っているからゴリ押すというケースが非常に多いです。

また、自社の技術水準、研究水準が、目標との間にどれくらいギャップがあるのか社内にそれをやる知識や技術があるか研究者(および技術者)に確認してください。隣接領域に踏み込もうとすることが多いはずなので、徒手空拳ではなく、ある程度武器を揃えた状態から開始できることもあります。それすら確認せず、偉い人による「ぼくのかんがえたさいきょうのけんきゅうけいかく」を実行しようとすることが多いです。

既存の研究を実用化しようとする場合、社内ではどの程度研究が進んでいるのか、実現可能性はどの程度なのか必ず確認してください。原理確立すらままならないのか、すぐに試作品を作ることができるレベルなのかで、実用化までのハードルは全然違います。

(2) 実用化までの技術的ハードル(ボトルネック)

これは研究者が一番よくわかっていることなので、研究者も正直に答える義務があります。たとえば、ある高価な部品や素材を使用しなければ実現できないものがあったとします。この部分をコストダウンすることは現在の科学では不可能(かつ自社研究でも解決不可能)なのだとしたら、すぐに商品化することは難しいという結論になるでしょう。ある程度コストを下げられると回答が得られたとして、そのコストで商売的に見合うかを考えるのは研究者に仕事ではありません(マーケット情報も自社製品のコスト情報も持っていない者にそんなことやらせてもダメですからね)。

もうひとつの例として、非常に歩留まりの悪い部分や一点物でしかできない部分が量産へのボトルネックになっている場合もあります。その歩留まりの悪さを解決する見込みがあるのか、安定して大量生産することは技術的に可能なのかという質問は研究者にしてもよいでしょう(状況によっては技術部門や調達部門が適任の場合もあります)。

(3) 研究計画の立案

研究計画そのものは研究者が立案すべきなのは言うまでもありません。もちろん企画部門と相談しながら計画を立てる部分もありますが、研究内容そのものは研究者を尊重して計画を立てさせることが重要です。研究者自身も、他部署の人にわかるような研究計画書を書かずに研究を続けるケースもありますので、きちんと計画を文書化しておくとよいでしょう。

このとき、研究計画を「偉い人がやりたいと言っているから」という理由で歪めないことが成功への秘訣です。(まぁこれはかなり難しいです。本当に難しいです。)特にスケジュールを勝手に決めたがる、最終的な仕様を勝手に決めたがるのはよくある話で、到底実現不可能なスケジュールや、宇宙の法則に反する最終仕様を求めてくると計画も何もあったものではありません。


まとめると、

「それできるの?(根性論やリソースの問題ではなく技術的・科学的に)」

「できるとしたらどれくらいお金と期間と人が必要なの?」

「それをもとに具体的な研究計画を立ててください」

ということのみ研究者に求めてください。研究者はそれに正直に答えるべきです。


研究者として普段からやるべきこと

もちろん研究者も普段からやっておくべきことがあります。

(1) 研究計画を文書化すること

意外にもこれが必須ではないことは多く、当社はもちろん他社でもあったことだと聞いています。年単位の研究計画なのに表紙込みでA4用紙3枚しかない研究計画書を目撃したこともあります(実体験)。僕が目撃したペラッペラの計画書は企画部門によって作られたものでしたが、今となってはこれを叩き台にしてもう少し詳細な計画書を作っておくべきだったと思っています。その場では「予定は未定」「やや机上の空論」でもいいのですが、どのような課題を研究するのか、不明な部分はどこで、どのようにそれを明らかにする予定なのか、達成したいことは何で、達成した場合はどのような製品に応用するつもりなのか、といったことを次々に書いていけば、それなりの分量になるはずです。これを作っておくと自分たちの研究の羅針盤にもなります。

(2) 研究の進捗状況を定期的に報告すること(そして文書化すること)

言われないとやらないことも多いですし、そういう「場」が設けられていないことも多いです。個人的には半年に1回ぐらいがいいと思います。企画部門はもちろんのこと、関係する開発部門の人も入れるといいかもしれません。その時には次のような文書を作っておくといいです。

(a) 研究報告書

(b) 論文・特許・学会発表の原稿とその一覧表

(c) 研究計画書(半期に一度アップデート)

もちろん研究者は嫌でしょう。研究の進捗が一時的に芳しくない場合は突き上げを食らうかもしれず、スケジュール至上主義の現場の連中に「遅れ」を指摘されたり(これについては別の稿で説明します)という可能性は大いにあります。また、論文や特許、報告書といったドキュメントを書く作業は往々にして研究者の嫌うところです(僕もそうでしたので人のことは言えません・・・)。

しかし、これをやらないと社内で「なにをしているかわからない」「無駄飯喰らいの偏屈集団」というレッテルを剥がすことはできないので、情報発信が重要です。また、たとえ企画部門が研究者の意見や報告を聞いた上で開発計画や事業計画を立案しようとしたときにも、判断材料がないとどうしようもありません。このあたりは研究者側にも責任の一端があるといっていいでしょう。

企画部門と研究者は手を取り合って

「企画部門」と漠然と書いたのですが、これは会社によって組織体系が異なることが多いためこういう書き方になっています。当社では本来どういう仕事をするのか曖昧になっており、各部門のクッション役としてしか機能していませんでした。偉い人から言われたことをそのまま下に流して尻を叩くだけの組織に成り下がってしまっており、提案力も失われていました。(他社ではそこまでの惨状にはなっていないと信じたいですが、なにしろn=1なので、他社の細部までは知りようもなく、このnoteの限界といえます。)

企画部門は研究者に「研究を実用化するビジネスプランを出せ」と催促せず、純粋に科学的・技術的な内容を聞くようにするといいでしょう。餅は餅屋です。研究者はそれについて、わかりやすく明快に答えるべきです。

研究者は、企画部門がいつ資料を出してほしいと言ってきてもいいように、また普段から企画の見通しを立てやすいように、報告と文書化をまめにしておきましょう。


と、まぁこれは僕が勝手にnoteに書き散らしている理想論であり、大方の現場ではこうはならないでしょう。企画部門によほど理解のある人がいて、研究者に報告の場を設けたり、文書管理のシステムを提供したりと世話してくれて、研究者は研究者でその意図に応え、研究成果を文書にまとめる。というような手を取り合う仕組みには、まずならないだろうからです。


今回はここまでです。読んでくださってありがとうございました。

次回は、「調達部門から見た研究者」です。


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