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なぜ企業で研究者は嫌われるのか(1) 企画部門から見た研究者(上)

このnoteでは、10年間企業や大学で研究職をしてきた僕が遭遇した事例から、なぜ企業では研究者・博士が嫌われるのかを書いていきたいと思います。

研究者とそれ以外の「研究者を嫌っている色々な部門の人」両方の視点から書いていきます。どうすれば関係は改善するのか、どうすれば企業は研究者や博士をうまく使えるのか、自分なりに考えたことをまとめていきます。

今日は第1回ということで、「企画部門から見た研究者」について書いてみます。

研究者を煙たがる「現場」の人々

「研究者は企業で煙たがられる」「ビジネス経験のない研究者は使いづらい」という話はよく聞きます。多分に先入観によるところも大きいですが、この先入観を裏付けられるような事件が時々起こるので、「ほら、やっぱり使えないじゃないか」となってしまうことは多々あります。

その最たるものに、「研究者は机上の空論ばかりこねて現実を見ていない」というものがあります。実はこの現場の言い分が真実かどうかはケースバイケースです。今回は企画部門との間柄について、2つのケースをみていきます。

Case1: 企画段階で研究者とすれ違う場合

当社の現場ではどのような製品・サービスを作るか、企画段階で研究者の意見を聞くことはあまりありませんでした。「研究者はどうせ浮世離れしているのでまともなビジネスプランを織り込んだ開発計画を立てられるはずがない」という先入観によるところが大きいですが、そもそも具体的なビジネスプランを織り込むという行為を研究者に求めること自体無理があるでしょう(研究者側も実用化に対し何も考えていないわけではありませんが、それはまた稿を改めます)。

企画を立てる段階で研究者に意見を聞く場合、

「物理的、生物学的、数学的に無理がない原理によっているか」

「あるコンセプトの製品を出したいが実現可能性はどれくらいあるのか」

「当社の研究テーマは製品化までどのような技術的課題があるか」

といった、純粋に科学的・技術的な問題に絞って意見をもらうべきなのですが、なぜか企画部門の人は「研究者が取り組んでいるテーマは、研究者自身がビジネスプランを提示するべきだ」とか、下手をしたら「量産品を見込んだ設計やプランニングを行うべきだ」などと考えているフシがあります。

「販売や量産といったビジネスの視点を織込めない研究職など所詮使えない」と考えてしまうのです。本来企業というのは分業制なので、そこまで研究者に考えさせること自体がおかしい(そこまでさせるならそれは企画職なのでは)と思うのですが、企画部門がもはや他部門とのクッション役としてしか機能しておらず、先端技術に関する科学的な知見もほとんど持っていないため、なかなか有効な企画がまとまらないのを研究者のせいにしてしまうのです。

そこで彼らがどうするかというと、研究者の意見を全然聞かず、営業サイドや偉い人からの希望を盛り込んだ研究計画を立ててしまいます。僕も経験があるのですが、企画部から降ってきた研究テーマが「仮にできたとしたらノーベル賞間違いなし」「物理の法則を変えないとできない」というレベルの到底実現不可能なテーマだった。というオチになってしまいます。

そこで(僕自身やったことですが)「それは不可能です」と答えようものなら、「お前らがビジネスプランを提示しないからこっちが考えてやったのに、やる前から不可能ですとはどういうことだ!」と怒られてしまうわけです。「〇〇さん(偉い人)が発案されて企画部でブラッシュアップしたものを『できない』とはどういうことだ!」と怒られたこともあります。発案もブラッシュアップも非研究者のみでやった研究計画ってのも凄いんですが、彼らは大真面目です。

こうして「だから研究者は偏屈で使いづらいんだ!」という印象が強化されることになります。

Case2: 既存のテーマですれ違う場合

僕が直接経験したのは1件しかありませんでしたが、他社から来た人にも似たようなケースがあると聞いたことがあります。「長年やっている研究テーマがあるのだが、一向に実用化という話が出てこない。研究者が浮世離れしすぎているからだ」というケースで、すでに研究テーマが存在する場合に起こりがちなことだと思います。

惰性で長年やっている研究テーマというものはどこの会社にもある(もしくは『あった』)ものだと思いますが、弊社もご多分に漏れずそういうテーマがありました。僕が新卒の頃配属されたテーマがまさにそうでした。

経営層や企画部門への報告も適当で、(ありがちなのですが)報告書や論文、特許といったアウトプットも少なく、外から見ると実用化に近づいているのかもよくわかりませんでした。研究者はその分野のスペシャリストなので自分たちでは見込みのある最先端の研究だと思っているのですが、それをちゃんと外に知らせようとか、技術文書や論文として定期的に出していこうという気がないのです。

企画部から見れば、長年やっているくせにちっとも提案やアウトプットが見えず、偏屈な研究者が見込みのない研究にしがみついているという状態に見えます。現実にそうでなかったとしても、アウトプットが少ないのは事実なので、内情を知りようもありません。しびれを切らした企画部門は研究者に「製品化へのロードマップを出せ」とか、Case1に書いたような「ビジネスプランを織り込んだ云々」と言い出します。

催促して出てきたアウトプットといえば、普段から外部へ報告していないこともあってかひどく専門的で、企画部門や開発部門の人が見てもよくわからない資料の山だった。というオチになり、「だから研究者は偏屈で使いづらいんだ!」という印象が強化される。ということになってしまいます。

どちらかというとCase1は企画部側に、Case2は研究者側に問題があるケースです。企画と研究がモメるシーンにはもっといろいろなケースがあると思いますが、僕が経験したのはこの2つでした。

ではどうしたらいいのか。という僕なりの考えは、次の(下)で書こうと思います。(今後は(上)で問題点を書き、(下)に僕なりの考えを書こうと思います)


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