研究者は何ができるのか 転職活動序章

このnoteは、「企業ではなぜ研究者・博士が嫌われるのか」という話を書いていくつもりで始めたものです。今日は連載とは別に、ちょっと思いついたことを書こうと思います。

僕は(研究以外に)何ができるのかと聞かれたら

僕は結構特殊な経歴を歩んできた身なので、研究者全般に当てはまる話とそうでない話があると思います。でも、「転職するときには自分は何ができるのか書き出してみましょう」とあったので書いてみます。「研究者あるある」として共感していただけるところと、そうでもないところがあると思います。

(1) ちょっとしたコーディング

プログラミングとコーディングの違いもよくわかっていない僕を許して欲しいんですが、とにかく研究者はなんらかのコーディングができる人が多いです。

僕の場合、入社したときに、ある試作品を自動で繰り返し動かす耐久試験をしながらデータをロギングするためのアプリケーション(?)を作ったのが初めてでした。僕に限らず、物理学や工学の実験をする人は自分で実験装置を回すためのコーディングができる人は珍しくありません。もうひとつ、自分のデータを解析するために自前でコードを書く人も多いです。アカデミックな現場だとMATLAB、R、Pythonが多いと思いますが、今の時代はPythonが重宝されるんですよね。(僕は事情がありC++とRだけで生きてきたので、Pythonはほんの少しかじった程度です。残念ながら。)でも業務用のソフトウエアを書いたことはないし、大規模なソフトウエア開発現場で働いたことがあるわけでもないので、大したことはできません。

(2) データ解析

研究者は大量のデータを扱うことが多いものです。画像データだったりテキストデータだったりしますが、最近の実験機器は莫大なデータを取ることができるので、もう人力で扱うのは不可能な規模になりがちです。こういうデータを解析するのに、統計解析を行ったり、一括して大量のデータを処理したり・・・というのを日常的に行います。僕はRとC++で仕事をするスタイルだったため、データ解析もほぼ全部Rで済ませて、Rでは遅すぎる場合はC++で前処理したりなんてことをしていました。でも統計の専門家でもデータサイエンティストでもないので、大したことはできません(初級の統計学の教科書に書いてある程度以上のことは研究に必要なかったというのもありますが)。

(3) 英語の読み書き

研究者は英語が達者な人が多いです。アカデミックにいる人は大抵相当の英語力を持っており、自分の専門分野であればネイティブと何の問題もなく英語でやり取りできるほどの英語力を持っているものです。

日常的に英文の研究分野の論文を読み漁り、自身もまた論文を英語で書きます。科学の世界は英語が公用語ですから、当たり前といえば当たり前です。

僕はどうかというと、アカデミックの世界にいる人ほど頻繁に学会発表をしたり英語で他の研究者とディスカッションしたりという場面が少なく、社内で機密性の高いテーマをやっていると外部発表もないので、喋ったり聞き取ったりする力は研究者の中でも低いといえます(実際聞き取る力はかなり低く、自分の専門を少しでも出ると途端に意味を理解できないなんてことはよくあります)。こんな僕でも読み書きは普段からさせられており、多少はできるつもりでいます。論文を読んだり英文を書いたりは社内だけでもやりますから。

しかし、僕はビジネスでの交渉事などはしたことがなく、自身の分野の外側にいる人と英語でやり取りすることはほぼないので、ビジネスの現場で英語が使い物になるかというと、大したことはありません。

(4) 調査

意外にも僕が当社で重宝されているのが、調査を行う能力です。データソースとして原著論文をあたり、ササっと論文に目を通し、エビデンスはこの論文のここに書いてありますよ。と指摘できる人は素人にはほとんどおらず、ほぼ研究者にだけできることなのです。(実際当社の技術者の皆さんにはできる人はほぼおらず、できるのは研究職の出か、学生時代に優れたラボに所属した人などに限られます)。まぁ企業によってはそこまでの能力は必要とされていないことも多く、僕自身も研究者の余禄として誰でもできるようなことができるに過ぎないので、大したことはありません。

結局大したことないんじゃないですか

結局僕は大したことないんですよ。工学部出てるくせに設計もできない(実験用のちょっとした電子回路をホビーレベルで作ることはできるけど・・・まぁガチの設計で使えるレベルじゃない)、プログラミングもまぁできるようでできない(数値計算と画像処理しかできない)、英語もロクにできないし、ライフサイエンス分野でありながら培養すらもできず(視覚に関わる装置での人を使った実験の仕事で博士号を取ったので、細菌、遺伝子などを扱うナマっぽい実験や侵襲性のある動物実験なんかはできない)、ましてやビジネスの経験もない。他の研究者や医師と会話することはできますが、それも自分の専門分野のみであり、他分野はマジに素人同然です。

研究者ってのは専門分野ではプロなんですけど、それ以外の分野ではそうでもないんですよね。だから研究者を雇う時は専門と求人が一致した「即戦力」が求められるという話はよく聞きます。

では企業研究者が他社に転じようとした時には・・・

結局何が評価されるのか僕には全然わからないんですよ。最近よくアカデミックの出の研究者の方が企業に就職するという話をネットで調べては読んでいるんですけど、「専門性がすごく評価された」「企業での業務経験がないのでダメ」と両極端の体験談が目に入ります。

僕はずっと企業で研究してきたわけですが、8割が大学や研究機関との共同研究であり、「企業に勤めてたから何なんだ」ってレベルです。テーマを何度も変えさせられたせいでアカデミックの人より中途半端だし、自分で予算取ったことないし、筆頭の論文も少ない(共同研究先の先生が1stになることも多い)し、取った博士号だって仕事しながらなんとか取らせてもらった(ラボの先生には頭が上がりません)という代物なので。

さらにぶっちゃけて言えば、転職の理由が「自社の研究所が縮小されて慣れない設計部門にブチ込まれたから」ですからね。誰が使うんだこんなの。

これから転職活動をしてみますが、こんな僕を拾ってくれるところが現れるとしたら、僕の何を買ってくれるのか、是非とも聞いてみて、このnoteに書いてみたいと思います。

もしかしたら路頭に迷うかもしれないけど、今の会社にいても将来はなさそうなので、なんとかがんばってみます。


追記:転職に成功しました

2021年5月末をもって前職を退職し、めでたく次の仕事が決まりました。

結局は企業の研究者に戻っただけでした。

僕を評価してくれた点を色々聞きましたが、メーカーで製品開発部門の中身をよく知っていたこと、外部との共同研究の経験が豊富であること、ゼロから研究を立ち上げてある程度形にした経験が複数回あること、実際に製品に採用できるレベルでの実験やコーディングができること、といったことが評価されました。

アカデミックのポストで必ず必要になる論文数や学会での実績はあまり関係なく、そもそも企業の方でも企業研究者でそういう実績が少ないのは承知の上で採用しているとのことでした。

転職活動のお話は稿を改めることにしますが、めでたく拾ってもらえたので追記しておきます。


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