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幻燈

『幻燈』という言葉。

この言葉を初めて知ったのは、太宰の小説を読んでいたときでした。

一章目の名前になっていたし、見た目や響きも綺麗だったので、興味を惹かれました。

読み進めていくと、その作品の中で『幻燈』は
風俗店(もしくは風俗街)の意味として使われていました。

※作中に決定的な表現はなかったので、あくまで私の予想です。

お恥ずかしながら、もともと知らない言葉でした。

単純に風俗店の意味を暗に含む言葉だったのか、あるいは比喩表現なのか気になって調べてみました。

『幻燈』の意味はこちらでした。

げん‐とう【幻灯】

フィルムに写した像などを1枚ずつ強い光で照らし、前方に置いた凸レンズで拡大し、映写幕へ映して見せるもの。 ドイツ人キルヒャの発明。 映画以前の時代に流行。 学校教材・宣伝などにも用いられる。

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%B9%BB%E7%81%AF/

現代だとあまり想像がつきにくいですね。

少し専門的な説明を見つけたので貼っておきます。

要は、現代でいう”スライドショー”というところでしょうか…!

なぜ、技術的な内容を意味する言葉が小説の中でこんな使われ方をしているのか…

自分の中で物凄く引っかかり、もんもんと考えていました。

もんもん

でも、これといった答えは見つかりませんでした。

光がないと成立しえない「影」と、風俗というその場限りの「興」という要素が共通して抱かせる「儚さ」「危うさ」という印象。

それらが生んだ比喩表現かなあ~と適当に自分の中で解釈して、消化させました。()

その後、経緯は忘れてしまったのですが、青空文庫を漁っていた時に『弱者の糧』という、これまた太宰の作品を発見しました。

ざっくりまとめると「映画って弱者に寄り添ってていいわー」という内容です。

雑すぎて恐縮なので、実際に一節を挙げてみます。

私は、映画を、ばかにしているのかも知れない。芸術だとは思っていない。おしるこだと思っている。けれども人は、芸術よりも、おしるこに感謝したい時がある。そんな時は、ずいぶん多い。

太宰治 『弱者の糧』青空文庫

…とこのように、「映画」に対する太宰の考えがつらつら書かれています。(例えにおしるこって、絶妙すぎやしませんか、語感も可愛い)

読み進めていくうちに、

これだ!!!!!

と閃いたんです。

幻燈って、いわゆる投影技術で、映画の前身です。

“人生における苦や憂を受けいれ、寄り添い、共感する、それが映画。”

というような主張が展開された本作。
※あくまで私の感想です。

生きている中で巻き起こる、色んな苦の中に、点として訪れる、おしるこみたいに甘くて優しいひととき。

なるほど、これは…

風俗に似て近しい何かを感じました。

太宰がどこまで考えていたのかは分かりません。

ただ、

この世に沢山ちらばっている言葉の中でどれを選んで伝えるのか。

なかなか難しいこの問題の答えを出す過程には、大なり小なり必ず何らかの意図があったはずだと思うのです。

さて、こんな感じでぐだぐだ考えて馴染み深い言葉となった「幻燈」

それがなんと今回、ヨルシカのアルバムの名前になっていました。

これまたびっくり!!

なんで幻燈にしたんだろう。

先程あげた太宰の映画に関する考えをもとに、「映画」の部分をヨルシカの曲に置き換えみたら、それはそれで納得できます。

ヨルシカって、どちらかというと負の感情に寄り添う歌が多い気がします。

といっても、わかりやすく元気づけたり応援したりはしません。

ただ等身大のまま今の気持ちにちょうどいい、なんというか、傷つかない歌です。

明かりで照らされた映像を暗闇の中見つめているという投影の構図も、なんとなくヨルシカっぽいなあと思いました。

一方で、単純に「幻」「燈」という2つの漢字を元に考えてみても納得出来ました。

漢字二つをそれぞれ馬鹿正直に解釈すると、

まぼろしの灯火。

うーん。

ちなみにまぼろしを更に言語化してみると

「実際にはないものがあるように見えること」となります。

これを踏まえて、私の妄想を入れて解釈すると、

そこにはないものを、見えるように映し出す灯火。

これに関しては、ヨルシカの曲に限らず、音楽全般、ひいては創作物全てに当てはまることのような気がします。

誰かの頭の中にだけある、実態のない何かを、誰もが見えるように触れられるように表現する。

この行為をちょっと洒落て表した言葉が
「幻燈」

若干無理矢理感のある解釈だけれど…

それか、普通に

画集をぺらぺらめくるのが、スライドショーっぽいな→スライドって和語にしたら幻燈→よしこれでいいかあ

みたいな感じで決めたのかもしれません。

わからないけれど、たくさん考えたんだと思います。

その中で、こんな綺麗な言葉を見つけ出して選び抜いたヨルシカの制作スタッフさん、本当にすごいなあと、しみじみ思いました。

そして勢い余って、こんな駄文まで書いてしまいました。

これから仕事上、「創作」に携わることになりました。

もちろん、アーティストのアルバムの名前を考える、みたいな大層なことはしないと思うけれど、いろんな人の目に留まるかもしれない何かについて、あれこれ頭を悩ませるのがお仕事内容です。

これは、会社の利益とかクライアントが云々とか、なーーんも考えずに、単純に仕事をする上でこうでいたい、という自分勝手な拘りなのですが、

言葉の「なんで?」を大事にしたいのです。

なんでこの言葉ないし表現を使ったのか、これを説明できるくらいには、言葉に責任を持って制作していたいのです。

(そんな言葉選びに時間をかけるほどの語彙力もないんだけれど、、)

自分が選んだ言葉を受け取って、あれこれ考える人がいるかもしれないことを忘れたくないです。

そして、人が選んだ言葉にちゃんと寄り添える人でありたいと思います。

何が言いたいのかわからない文章になってしまいました。

なんでもありなnoteなので許してください()

ここまで読んでくれたお優しい方へ。

締め方がわからないので、ヨルシカのアルバム貼っておきます。

今回の収録曲はどれもよかったです..!
にわかが恐縮ですが、ぜひ

アルジャーノン、本当にいいです…
膨らむパンの歌詞で泣いてしまいます。

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