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【乙女のグルメ:No.1】ストロベリーショートケーキレポ【ホテルニューオータニSATSUKI】

〈記事の概要〉ホテルニューオータニのイチゴショートケーキの味を、恋愛ショートストーリーで表現する記事。

〈目次〉
①本食レポについて
②ニューオータニパティスリーSATSUKIとケーキ基本情報
③ショートストーリー

①本食レポについて

 甘いものを食べている際、人の頭にはセロトニンという物質が脳内に分泌されると言う。それはまるで恋をしている時のように、幸せでぷかぷかと浮足立つ気持ちにさせる。つまり、「スイーツを食べる」という行為は「恋の物語が展開している」と言えるのだ。ならば、甘味の繊細な味や甘さ触感などは、恋愛物語で代弁が可能と思われる。
 このシリーズは、それぞれのスイーツに潜んでいる恋の話を、三度の飯とロマンスが好きな筆者が形にしたものである。

②ニューオータニパティスリーSATSUKIとケーキ基本情報

 今回のお店は、セレブや政界の著名人もご用達「ホテルニューオータニ」内のパティスリー「SATSUKI」のストロベリーショートケーキ。オータニと言えば、先日菅総理の好物であるパンケーキが話題になっていましたね。

「Patisserie SATSUKI」とは?
ホテルスイーツで圧倒的人気を誇る、ホテルニューオータニのグランシェフ 中島眞介のオリジナルケーキと焼きたてのパン約100種のバリエーションが楽しめるペストリーブティック。[HPより引用]

 東京都千代田区紀尾井町にある高級ホテル、ホテルニューオータニにSATSUKIはあります。併設されたカフェでケーキをいただくこともできるし、テイクアウトも当然対応しています。パリで人気のマカロンブティック「ピエール・エルメ」と提携もしているそう。
 「都内 おいしい ケーキ」で調べると、ほぼどこのサイトにも名前が挙がるくらい有名なパティスリーなだけあって、売り切れている商品もたくさん…。お客もひっきりなしに訪れています。確実に手に入れたいものがある時は予約をするのがおすすめ(三日前まで)。
 流石のニューオータニ。接客はもちろん一流です。絨毯もふかふかなので、ヒールの音を気にせず店まで早歩き。ただし服装はそれなりに小綺麗にしていかないと、少し浮いてしまう感は否めません。ここのケーキは、食べる前から人間をレディとジェントルマンにしてきます。
 煌びやかなケーキがたくさんケースに並んでおり、あれもこれもと頼みたくなってしまいますが、「料理屋の腕を見たかったら卵焼きを頼め」というじっちゃんの言葉にかけて、定番のショートケーキを選択しました。

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ストロベリーショートケーキ 1ピース 650円(税別)
みんな大好き可愛いいちごのショートケーキ。季節ごとにその時期に一番美味しい旬の国産いちごを約4粒使用。ふわふわのスポンジにはグラン・マルニエ、滑らかな生クリームにはキルシュヴァッサーを隠し味に、どちらも風味豊かな仕上がり。主役であるいちごの酸味と甘みを引き立てるこだわりが詰め込まれています。[HPより引用]

 サイズは少し小さめ。女性の手のひらにも乗るサイズ。後述しますが、味が濃厚なので小さめで良かった。
 高級ホテルのパティスリーですが650円ということで、決してお安くはないけれど手の届かない値段設定ではない。

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小さめながらも中は綺麗な二段。スポンジは黄色がつよい。カステラっぽい。

食べてみると……

「美味しい……!」


クリームは、練乳が入っているかのような味の濃厚さ。しかし甘過ぎない。
スポンジは粗めのように見えるが、ふわふわしている。
正直イチゴはとびきり甘いわけではないが、甘いクリームと合わさるのでこれくらいの酸味を残している方がいいかもしれない。
クリームやスポンジの厚さが均一で水平なところに職人技を感じる。

前評判通り、本当においしい。おいしい。

優等生、王者のケーキ。おいしい。
万人受けする味で、恐らく日本で一番おいしいのではないだろうか。

感動しながらこの王道ケーキをほおばるうちに、浮かぶのは民に愛され、民を愛す王子様の笑顔――。
高級パティスリーのケーキであり、容姿端麗、人を選ばぬおいしさ。それでありながら庶民にも笑いかけてくる気さくさ(値段)はまさに王子

断言する。

「王子様が嫌いな女の子はいません……!」


このケーキには、過去からそして未来にかけて乙女たちに永遠の支持を受ける「王子様との恋物語」が見えた。


③ショートストーリー「夢のあとさき」

 馬車を降りると、辺りは目がチカチカするほど眩い宝石の中だった。真っ赤な絨毯の両端には、揃いの制服を着た騎士が一列に並んで敬礼をしている。そこで私はようやく、自分の身に起きた事の重大さを理解し始めたのだ。
「中で殿下がお待ちです」
「は、はい……」
 男はうやうやしくお辞儀をして、いつまで経っても歩き出さない私を促した。ぎこちなく一歩を踏み出すと、太陽の光が足元を照らしてきらりと清純な光を放つ。それは、私が舞踏会の夜に見た輝きと同じだった。あの時落とした恋の片割れは、いま愛の誓約書となって私の足に纏っている。
 足を進めるより何倍も速く、心臓が高鳴っている。息切れのような吐息が唇から漏れ、緊張で頬はこわばっていた。でも、仕方がないだろう。自分には一生縁がないと思っていた宮殿に呼ばれて、多くの人達にかしずかれているのだから。これまで普通に生きてきた女の子に、堂々とした振る舞いを要求する方が無茶な話だ。
 こつり、こつりと感じる振動で、私は名付け親の妖精を呼ぶ。しかし、返ってきたのは器楽隊が鳴らす優雅な音楽だけだった。私は少し泣きそうになって、唾を飲み込む。舞踏会では助けてくれたけど、これ以上手を貸すつもりはないらしい。ここからは、一人で頑張れってことか。
 騎士の間を抜け、白亜の階段をのぼる。すると、仰々しいくらい大きな扉が目の前に現れた。この扉の向こうには、あの人がいる。とうとう私は、ここまで来てしまった。苦しくなってわずかに足が震えたが、何回か瞬きをしてから心を決めた。私の進行に合わせて、二人の衛兵がドアに手をかけた。
 新たな世界に囲まれてすぐに、奥に立っていた人物と目が合って、世界の全てが止まる。黄金色の装飾も、豪華なシャンデリアも、全てが白に飲み込まれた。私たちは互いを捉えて、徐々に早歩きになり、最後は駆け出していた。
 距離が近づくと、彼は腕を伸ばして私を抱きしめた。懐かしい熱と甘い香りに包まれて、先ほどの戸惑いは姿を消す。王子は柔らかく目を細めた。
「やっと会えた」
 私もそれに応えるように微笑む。
「……靴で女性を探すなんて無茶を、普通しようとは思わないでしょうに」 
「それしか君を探す手段がなかったんだ」
 私は体を離して彼を見上げる。
「あの、お触れに出したことって本気なの?」
「お触れ? ……ああ、”ガラスの靴が合った女性と結婚する”ってこと?」
 頷くと、彼は声をあげておかしそうに笑った。
「本気に決まってる。まさか嘘だと思ったの?」
「だって、私はお姫様でもなんでもない。ただ舞踏会であなたと会っただけの、庶民の娘。こんなに都合の良い夢なんてありえない」
 眉尻を下げて言うと、彼は少し驚いたように目を見開いた。そして私の頬を、手の甲でそっとなでる。
「でもここまで来てくれたじゃないか」
「それは……」
「それに僕は、舞踏会で会う前からずっと君のことが好きだったんだよ」
 思いがけない言葉が聞こえて、目を瞬いた。王子は困ったように唇の端を持ち上げる。
「街のはずれにある、老婦人が経営している小さなパン屋を知っているね?」
「知ってるも何も……」
 そこは私が普段小麦粉を買う店だ。あそこのおばあさんだけが、私に優しくしてくれた。
「暴漢が押し入った時、君は婦人をかばって前に出ただろう」
「どうしてそのことを……」
 いつも通りおばあさんと話をしていたら、けたたましい音を立てて男たちが店に入ってきた。彼らは隣町からやってきた窃盗団のようで、手元のナイフを認識し私は顔を青ざめた。
 入口の観葉植物を蹴飛ばしながら、強盗は店の奥まで進んでくる。店内には私とおばあさんしかいなくて、誰にも助けを求められない。そのうち体躯の大きな男が、怒鳴り声で金品を要求した。恐怖で動けないおばあさんにしびれを切らして、胸倉をつかもうとする。その様子を見た私は、思わず二人の間に割って入っていた。男は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに顔を歪めて笑い、私の腕をつかんだ。力が強くて、骨がきしむ。男がナイフを振り上げて今にも殺される状況になった時、背の高い男性が店に駆け込んできた。鮮やかな剣さばきで、次々と盗賊を剣で倒す。あっという間に決着はついて、その救世主は言った。
「もう大丈夫」
 笑った顔が太陽みたいだった。私は知らない間に涙を流していて、彼の顔はうっすらぼやけていたけれど、確かにそう思った。ちょうど王子様と同じ髪色の……。
「……まさか。あなたがその時の」
「イチゴのジャム、ありがとう。あんなに美味しいもの、僕は初めて食べたよ」
 ハッと口元を押さえる。イチゴのジャム。それは私が、助けてくれたお礼に荷物から”彼”に差し出したものだ。
「……本当に?」
「舞踏会の日、はじめましてって言ってごめん。本当は君とまた会いたくて、国中の娘を呼んだんだ」
「そんなこと」
「この指輪を見てもまだ僕を疑う?」
 王子は、手のひらに一つ指輪を乗せていた。大きなダイヤモンドがはまっている、綺麗な指輪。
「これ……」
「結婚しよう。お触れで先に言ってしまったけれど、僕の言葉でも伝えたい。結婚しよう、僕の妖精。君しかいない。情けないと思うかもしれないが、あの日から僕は、君に夢中なんだよ」 
 そういう彼の瞳は、ガラスの靴みたいに虹のプリズムが含まれていて、いつまでも見ていられるくらい輝いていた。
「……」
「……あの、大丈夫?」
「一目惚れだと思ってた」
「え?」
 私は嬉しような悲しいような変な顔で笑う。
「助けてくれた時、なんてかっこいいんだろうって。彼を、好きになった。でも、名前も聞かなかったから、どうすることもできなかった。例えわかったとしても、母さまや姉さまは絶対に許してくれない。だから諦めた。夢でよかった」
 じんわりと、瞼がかすみだす。せっかく小綺麗にしてきたのに、また涙で顔がぐちゃぐちゃになりそう。
「舞踏会に行って、初めにあなたを見かけて、心が打たれたの。一目惚れだと思ってた。でもそうじゃなかったのね」
「僕が強引に、赤い糸を手繰り寄せた」
 ぽろりと雫が一粒頬に流れる。すると彼は手の甲で優しくそれをぬぐった。私は顔を上げて、彼を見据える。
「……結婚します。私で、良ければだけど」
「当然だ。言っただろ? 君しかいないと」
 彼は今までで一番優しく微笑んで、顔を近づけた。
「……ま、待って」
 何をしようとするのかわかっていたけど、私は気恥ずかしさで離れようとした。でも彼の腕で腰を抱えられて、逃げられない。ガラスの靴は、しっかりと私の足にくっついていて、落としそうもない。
「もう、待ったはなし」
 不思議なおとぎ話に、こうして優しい幕が下りた。



今回はニューオータニのパティスリー「SATSUKI」の、ショートケーキを食べました。王道で、優しい、かつみんなが大好きな味。それはまさしく、昔読んだ甘美なおとぎ話のような……。
もし今の日本に王子様がいるとしたら、それはSATSUKIのショートケーキだと思う。

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