お弁当と思い込み

夫が体調不良で会社を早退し、今朝作ったお弁当を自宅で食べていた。
お弁当箱はもう何年も前から使っているフードマン。フードマンの弁当箱は普通のお弁当箱とは違い、中に仕切りがあるのが特徴だ。

フードマンは全体が正方形で、中の仕切りは大きい長方形と小さい正方形がふたつ。私はいつも大きい長方形にご飯をつめ、小さい正方形におかずを詰めている。

画力。

お弁当を作る手順は決まっていて、先にお弁当箱にご飯を入れて冷ましつつ、おかずを作る流れ。
なので私はいつもご飯スペースを奥、おかずスペースを手前にして、おかずを詰めていた。

夫はおかずの奥にご飯がくるようお弁当を配置して食べているものと疑わず、見栄えやおかずの取りやすさなども、その配置を「正」として仕上げていた。

けれど、今日夫が食べているお弁当の配置は私が思っていたものではなかった。
夫はご飯ゾーンを左、おかずゾーンを右にしてお弁当を食べていたのだ。

どうでもいいことなのだが、私にはちょっとした衝撃だった。
正面の認識が夫と違う可能性に思い至らなかったことも、今までの気遣いがすべて空回りだったことも。

考えてみれば、食べる側からすれば、ごはん⇔おかずの往復をするのに、ご飯が奥にあるのは不便だ。
ご飯が奥にあったほうが詰めやすいという、作る側の都合でしかものを考えられていなかったと反省した。

視点を変えるとは、思い込みを捨て、お弁当の向きを変えてみることと同じだ。
一旦「これが正しい」と思い込んでしまうと、その正しさが独りよがりのものである可能性に気づけない。思い込みは、目の前にあるはずのものを錯視のごとく消してしまう。

夫のお弁当はまぁどうでもいい。問題は、視点が固定されると、発想も固定されてしまうということ。
柔軟な発想をしているつもりで、背中にあるものが見えないまま決定を下すことになる。

思い込みは、ありとあらゆるものに存在する。
・文章の書き方
・子どもとの会話
・家事ルーティン
・仕事の進めかた
・家具の配置
・ものの考え方
などなど。

見落としている思い込みに気づいた瞬間のことを「目から鱗が落ちる」というのだろう。それこそガストロの鱗ほどにびっしりと、私の目には鱗が覆いかぶさっていそうだ。
※ガストロ=鱗びっしりな魚。ウロコマグロとも言われる。

思い込みに気づき、目にへばりついた鱗を落とすにはどうすればいいか。私なりに考えた。

・いかなる時も想像力を働かせる
難しいが、これが一番大切だろう。今回で言えば、お弁当を食べる夫の視点に立っていれば、正面が一方向ではないことにすぐに気づけた。

・体験してみる
夫のお弁当箱を自分でも使ってみれば、さらに気づくことがあるかもしれない。何かを作る側にいるときは、使う側になってみるのが一番気づきが多く、手っ取り早い方法だと思う。

・観察する
夫がお弁当を食べているところを目撃したことで、思い込みに気づけた。不便だなと思いながらも何となくそのままでいることを、逐一観察してみれば、問題をあぶり出せるかも。

ここでちょっと視点を変えてみよう。
前述のように私は、おかずスペースを正面としてお弁当を詰めていた。
なので、夫の配置で食べる場合、魚は縦を向き、もっとも取りにくい場所に取りにくいおかずがくるといった不便があったはずだ。
私とは正面の認識が違うことに、夫は気づかなかったのか?

そう、これは、私だけの問題ではない。
恐らく夫は人がせっかく作ったお弁当を、ろくに観察もせず、ただ口に運んでいたのだろう。これがまず問題。愛情的に。

また、私は夫が食べるところを今日まで見ていなかったが、夫は私がお弁当を詰めるところを幾度となく目撃していたはずだ。
気づいていなかったとしても問題だが、気づいていて言わなかったのも問題だ。言っておくれよ。もし気づいていたなら言っとくれよ。コミュニケーション的に!

とはいえ、夫がお弁当の配置程度のことで、私に気を使って言えなかったとも考えにくい。夫はなーんにも考えず、自分の正面が正しいと思っていたし、不便とも思っていなかった、というのが本筋だろう。それはそれで幸せだ。

となれば、また視点が変わってくる。そもそもお弁当に正面があるという認識自体、私の思い込みである可能性が出てくるのだ。

お弁当の配置ごときで1記事書けるほど反省&視点を変えてまで責任転嫁をする嫁と、些末なことは何も気にせず幸せにお弁当を食べる夫。
思い込みは、毒にも薬にもなる妙薬であるというのも、一つの視点だ。

ところで、先ほど出てきた鱗びっちりガストロであるが、別名を覚えているだろうか。
そう、ウロコマグロだ。
これを見てガストロがマグロの仲間と思った人は多かろう。
けれど、ガストロは実はサバ科。これもまた、思い込みのひとつである。

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