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触れない猫だった。触る努力をしていなかったんだ。

寄れば逃げる。手を出せばシャーと言う。もっと手を出せば爪出し猫パンチが飛んでくる。そういう子なんだと決めつけていた。決めつけていたのは自分だった。あの子はそうじゃなかった。触れ合いが嫌いだった訳じゃない。そうわかったのは、偶然からだった。

私は手芸が好きである。ある折に、手作りの猫じゃらしを買い求めた。芸術性もある、その雉羽根製猫じゃらしを眺めながら、単純に手芸好きの血が騒いで「作りたいな」と。その延長線上で、「作った猫じゃらしでうちの子がじゃれてくれたら嬉しいな」と思った(当時、大人のチャコさまと子猫のポンちゃまがいた)。

作り方を考え、材料を揃え、作ってみた。作る過程はとても楽しく、その後私を手作り猫じゃらし道に招いたのだが、それはまた別の機会に詳しく書こうと思う。そしてできた猫じゃらしで、チャコさまとポンちゃまをじゃらしてみたのだ。

ポンちゃまは子猫なのもあって、箸が転がっても可笑しい年頃である。猫じゃらし何でもウェルカム、よくじゃれてくれた。ポンちゃまは渋い。反応がない。何しろ、近付くと逃げる、手を出すとシャーの猫である。しょうがない、これで当然だろうと思っていた。

きっかけは何だったのか、今でも実はわからない。ふとしたことで、手作り猫じゃらしの棒の先、紐が固定してある部分で、頭を触ってもチャコさまが嫌がらないことに気付いた。チャコさまが嫌がらない…それは驚愕の事実。そんなことがあるのかと思いつつ、猫じゃらしの棒の先でなでること数日。

棒の先っちょじゃ細くて痛かろうと、悩んだ。でもこの方法でしかチャコさまには触れない。当時、チャコさまに触れないという悩みはチャコさまを譲渡いただいた保護団体さんとも共有していた。そういう猫への対応法も聞いた。歯ブラシに棒を付けて伸ばし、ニンゲンの手を遠くで持てるようにして、歯ブラシで頭や身体をなで、徐々にニンゲンの手を近付けて手への恐怖感を無くしてゆくのだと。

ここでまた、手芸好きの血が騒ぐ。歯ブラシもいいけど…手作りのブラシでなでられないか?猫じゃらしの素材は、竹ひごと麻ひもと鳥の羽だ。竹ひごと麻ひもでブラシっぽいものが作れるのでは。早速手を動かす。麻ひもでタッセル(紐の束)を作り竹ひごの先に固定した。一日置いてボンドを乾かし、早速翌日使う。その様子がこの動画である。

あとは動画を見ていただいたほうが話が早い。猫じゃらしの棒から始まり、「なでなで棒」と名付けた手作りブラシでなでることができた。しかも喉をゴロゴロ鳴らしたのだ。チャコさまは心を閉ざすような態度を取ってきたので、喉を鳴らすことすらなかった。そんなチャコさまが、初めて「気持ち良い」と喉を鳴らした。

今思い出しても震えるほど嬉しい。なでなで棒を寝ているチャコさまの上に差し込んで行く時は本当に緊張した。威嚇されたら、猫パンチされたら。そんなこともなくチャコさまはすんなりと受け入れた。なんの風の吹き回しか、チャコさまのご機嫌はよろしかったようだ。

この日以降、毎日のようになでなで棒でなでるようになる。人馴れ訓練だ。その日々はまた引き続いて記していこうと思う。思いもかけない日々がこの後続くことになる。

サポートしてくださると猫のゴハン代になり、猫じゃらしの素材代になります。趣旨に賛同できる方はお願いできれば幸いです。