マガジンのカバー画像

龍の背に乗れる場所

12
特別なんかじゃない。寧ろ普通より劣っている。 生産性も金も運も無いが、自由に生活してきた女が見つけた最高にふさわしい自分の居場所。
運営しているクリエイター

2021年6月の記事一覧

龍の背に乗れる場所 7

 この歳になって初めて、パソコンを手に入れた。  宅配便で届いたそれは、白井の遺品だった。彼女は遺書を残していたらしく、自分が死んだらこのパソコンを私に送るようにと書かれていたらしい。そんな内容の手紙が添付されていた。  パソコンと言えばインターネットだ。偶にネットカフェで弄っていたので、操作方法は解る。後は環境の問題だが、丁度、商店街の祭事区画で三ヶ月料金無料、取り付け工事費無料のキャンペーンが開催されていたので迷わず申し込み、インターネット環境を開通させた。人生初の『

龍の背に乗れる場所 8

 アナルゥと言うのが、彼女の渾名だった。  何処か卑猥で、中途半端な呼称と同じく、彼女自身の立ち位置も現状、どこか卑猥で中途半端な物だった。  十四歳で芸能事務所にスカウトされ、二年ほど地下アイドルとして跳ねたり飛んだりしていた。地下アイドルというのはテレビに出演せず、ライヴ・ハウスなどを中心に活動する人達の総称で、バラドル(バラエティーアイドル)に比べると一本芯の通った印象を与えやすい。  彼女、いや穴井留美《あないるみ》は、そんな中でも頭一つ飛び抜けた存在だった。往々

龍の背にのれる場所 9

 数年前、田端カオルと出遭ったあの日。穴井留美の中に、これまで想像すらした事のない情感が宿った。  この落ちぶれて死にかけの女は、何を思って生き続けているのだろう。この女に餌を与えたらどうなるのだろう。  それより何より、この薄汚い女に陵辱される事こそ、今の自分に相応しい事なのではなかろうか。  穴井留美は並べられてあった色紙を全て買い上げ、たかだか五万ちょっとの出費で、田端カオルの時間を拘束する事に成功した。  家に誘い、酒でもてなし、食事(と言ってもツマミ程度だが

龍の背に乗れる場所 10

 映像界に復帰してからは、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。  相田菜留未《あいだなるみ》、それが穴井留美《あないるみ》の新しい名前だった。残念ながらアナルゥと言う渾名は変わらなかったが、それでも違うステージに立った彼女は一躍トップスターに躍り出た。  アイドルAV女優。それが新しい彼女の肩書だ。  元々、整った顔付きと、プロポーションの良い身体だったのに加え、抜群に感度の良い身体を持ち合わせていた彼女は、『演技っぽさが無い』と、多くの男性層から人気を集めた。実際、彼女は演技など

龍の背に乗れる場所 11

 自分の居場所を確認する作業は大変だ。しかし見方を少し変えれば、そんなに難しくないのかも知れない。 「木炭って網の上で良かったのか?」 「ミキ、おやさいならべるよー」 「うわっ、皿が飛んで行く! 紙製品はこれだから駄目なんだ!」  結果から言えば、このメンバーの誰もがバーベキューをした事が無く、誰もが他人任せにしようと目論んでいたのだと思う。  かく言う私もその一人で、慎吾辺りが多分知っているので丸投げしようと思っていた。  もうすぐ九月が始まると言うのに猛暑日は

龍の背に乗れる場所 12

 楽しかったバーベキュー大会から数日経ち、私は家で色紙に詩を書き続けていた。あの思い出が霞む前に、出来るだけ多く『文章として』残すのだ。  おかしなもので、あれから酒に手を伸ばす事が減った。但し、私は正真正銘のアル中なので、酒を断つには至らず、日々必要に迫られ《《適量》》を呑み続けはしているけれど。  色紙に向かい、無心で筆を走らせていると、携帯電話の着信音が鳴った。アナルゥからだ。 「もしもし」 「カオル、ネットニュース見た? 大変よ!」 「暫くパソコンは弄ってい