もけると物語【１：小柄な建築家ライトさんとピエロ】

「嬉しゅうございます！」

名前も分からなければ出身地も不明。そんな赤鼻の彼を【妄想アパートメントもけると】の管理人として迎えました。そもそも、このアパートメントにはまだ誰も住んでいません。まぁ、悪い人でもないみたいだし、盗まれるものもない（図書室の書物と自習室のビデオは山のようにあるけど）だろうから、

「お任せしますよ。」

って、言っちゃったんです。だって、部屋もいらないって言うんです。

巨匠と天井

改めまして。私は住宅白模型職人のtecoと申します。古びたアパートメントを買い取り、その一室に住んでいる”元管理人”です。天井も低いし薄暗いアパートメントなものだから誰も入居してくれません。でも、静かだし住み心地もそこそこ良くて。”住めば都”ってやつです。

ところで、住宅白模型と聞いてピンとくる方はそれほどいらっしゃらないでしょう。家づくりを進めるご家族でも知らぬまに竣工まで辿り着くのですから、一般にはマイナーな”模型”なのです。

「鉄道模型？ガンプラ？あぁ、城模型だべっ！」

という微妙なオチも良く聞きますが、例えばこんな模型も住宅白模型と言います。結構な豪邸ではありますが”アメリカサイズ”と思ってください。

こちらの写真は、世界３大巨匠で知られる建築家フランク・ロイド・ライトさんが設計したロビー邸です。大きいですね。日本では旧帝国ホテルで知られる建築家です。旧帝国ホテルの実物の一部は愛知県の明治村に移築されています。東武ワールドスクウェアではスケール25分の1（Scale=1/25）で全体像が楽しめます。

写真の模型（ロビー邸）は東京大学小石川分館のアーキテクトニカ（2021年から臨時休館中）に展示（私が製作を担当しました）されているのです。ご都合の良い時に足を運んで頂くとして、とても特徴的な風貌ですね。地平線のように水平に長く伸びる深すぎ感のある庇。これ、プレーリースタイルって言われています。直訳すると草原様式でしょうか。大地に溶け込むような、でも力強さも壮大さも感じられる独特なデザイン。連続する窓もなかなか勇気がいる配置です。東京都内で体感したい方は目白の自由学園明日館がオススメです。あ、そういえば国内にもライト建築を啓蒙するようなハウスメーカーがありますが・・・。興味ありましたら検索してみてください。

そんなロビー邸ですが、実は天井の高さにも特徴があります。落水荘（カウフマン邸）という代表作も天井の高さには注目が集まります。とても低い天井の通路先に広がるリビング。

もちろんリビングだけに天井も高い。そのギャップが素晴らしい！と思いきや、どうやらリビングの天井はそう高くないらしく、むしろ、床面積が広い分だけ圧迫感ありあり、なんて意見もあります。そこを上手く解釈すると、

「大きな連続する窓の先の景色に目を向けさせる装置」

なんだとか。なるほど、確かにそんな解釈もできるよねって思うあなたに、別の解釈のヒントをプレゼントしたいと思います。

「ライトさんは小柄だったそうですよ。」

ピエロと身長

赤鼻の彼・・・、これからは”管理人ピエロ”さんと裏では呼ぼう。彼は背が低いんです。分かりやすく言うと、私がサラブレッドなら管理人ピエロさんはポニーくらいの差があります。なんかこの表現、私が悪者に聞こえる気がします。

「部屋はいらない」と言っていたのは、屋根裏部屋の存在を知っていたからなんです。私自身すっかり忘れていた”屋根裏”です。なぜ知っていたのかまでは聞きませんでしたが、天井高さが140cmもない屋根裏部屋でも直立できるくらい、彼は背が低かったんです。

普通の部屋よりも狭くて暗い、ついでに何年も手つかずで薄汚れた”屋根裏”でした。そんな”屋根裏”を管理人ピエロさんはほんの十数分後には片づけてしまいました。そして、静かで居心地の良い私の部屋にお掃除完了の報告にやって来たのです。「あんなに狭くて汚い”小屋裏”に本当に住むのか？」と思いながら管理人ピエロさんが整えた屋根裏部屋に行ってみたんです。そしたら、静かで居心地の良い私の部屋よりも、明るくて広くて小鳥たちの声も木々のこすれる音も近くに流れる川のせせらぎも程よく聞こえる羨むほどの部屋にしてしまっていました。

「どうやって？」

「手伝ってくださいましたよ？」

「へっ？」

「住人がいらしたんです」

「いや・・・」

「明日からよろしくお願い致します」

今のところ掃除くらいしかやってもらうこと思いつかないんですけどね。で、管理人ピエロさんのことを魔法使いかもしれないと思っちゃってます。生まれ変わった屋根裏部屋の片隅に”空飛ぶほうき”でもあるんじゃないかってキョロキョロと探してしまう自分が恥ずかしかったりもしています。ところで住人って誰のことだろう？

明日から妄想アパートメントもけるとはtecoと管理人ピエロさんの二人三脚での再出発となりそうです。