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もけると物語【2:建築模型士と名建築で昼食を】

朝、柔らかい陽の光と食器の音で目が覚めたんです。

「おはようございます。マイスター!」

そういえばアパートメントの鍵は掛けたけど、部屋の鍵は忘れていました。管理人ピエロさん、どうやら無断で部屋に入って朝食を作ってくれたみたいです。そうか、屋根裏部屋にはキッチンはないもんね。お金もないなら食べ物もないはず。まっ、いっか。むしろ有り難い。

「おはよう、・・・えっと、なんて呼ぼう?」

「ピエロで構いません。」

「そう呼ばれていたの?」

「はい。赤鼻のトナカイではなく、ピエロでございます。」

「”マイスター”ってなんかカッコいいね。」

「アトリエに素敵な模型がございましたから。」

「”アトリエ”も響きがいいね。」

”ピエロ”だなんてビックリしつつ、かえって気が楽です。”ピエロさん”って堂々と呼べるんですから。それに、普段”職人の作業場”程度にしか思っていなかったこの場所がカタカナで呼ばれると随分印象が変わるものです。

名建築と昼食

軽い気持ちで入った喫茶店の珈琲が意外に美味くて唸り声を挙げてしまうことってありません?喫茶店っていう時点で古い人のように思われますが。以前、喫茶店というよりカフェ巡りにハマったことがあって。女の子しかいないようなカフェでも、はまっていた”あるもの”を目当てに容赦なく入店していました。その”あるもの”を良くひっくり返して覗き込んでは「落とし物ですか?」と店員さんに怪しまれたものです。まぁ、そのお話は次の機会にするとして。

管理人ピエロさんの朝食が美味かったんですよ。唸るくらいにね。で、なぜなの?って聞いたんですけど、どうやらあるカフェをちょっとだけ任されていたらしいんです。あの大好きなドラマにも出てきたカフェでビックリです。昼食もお願いしちゃおうかな。

オススメのドラマです。「名建築で昼食を」ってドラマで、昨日ご紹介した自由学園明日館もロケ地になっています。タイトル通り、名建築をめぐりつつ、名建築つながりのカフェやレストランで昼食を頂くというシンプルな構成。全話ストーリーでつながっていますし、スペシャル横浜編もその流れを汲んでいます。ちなみに、書籍DVDも出ていますからめっちゃオススメしておきます。もちろん私も購入済みです。私物なので図書室にも自習室にも置いていません。ご自身で購入してくださいね。

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管理人ピエロさんがアトリエで見た模型って多分これだと思います。ドラマの中で唯一出てきた模型の復元です。私が妄想アパートメントもけるとに引っ越してくる前に住んでいたカサミラというアパートメントで黙々と作った平屋の住宅白模型です。ドラマの中の映像をもとに図面を起こし、妄想を加えて完成した自己満足模型です。当然、どこにも嫁がず部屋に残っています。

昼食、やっぱりお願いしよう。

談話室と昼食

「どちらで昼食になさいますか?」

「私の部屋以外にあるの?」

談話室はいかがでしょう?」

「・・・あの部屋?」

「きれいにしておきます」

まだ誰もいない(はずなんだけど・・・)アパートメントの1階中央にある大部屋。もちろんクモの巣だらけで家具も散らかし放題。片づける気なんて起きるわけもありません。管理人ピエロさんの昨日までの”屋根裏”と同じようなものです。屋根裏とは違って広いし窓もたくさんある。お掃除するには魔法使いのほうきだけじゃ足りない気もするし。いるはずのない”住人”とまた一緒にきれいにしてくれるんだろうか?と半信半疑。でも、何かが起こるかもしれないワクワク感が勝って、「じゃあ、談話室にしよう」なんて返事をしてしまいました。その後は納品間近の仕事のために部屋に戻ったんです。お昼がちょっと楽しみです。


「コンッ、コンッ、コンッ」

とノックの音が3回。ちょうど正午です。管理人ピエロさんが今度はちゃんとノックをして私を迎えに来てくれました。昼食の準備ができたのです。まさか、あの広くて窓の多い、でも薄暗くて家具が散乱した”あの部屋”で昼食?

私の部屋は2階の奥まった場所にあり、1階の”あの部屋”まではちょっと距離があります。静かで薄暗い通路を二人で歩いて階段まで来ると、何やら階段の下からにぎやかな気配が感じられました。なぜかいつもきれいな赤い絨毯の敷かれた階段を降り”あの部屋”の入口まで来るともう室内の状況は理解できます。硝子の扉だから室内が良く見えるんです。いや、違った。やっぱり理解できません。

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「誰かいる!しかも大勢いる?」

見違えるほどに趣のある雰囲気の談話室が目の前に広がりました。腰壁は木の板が張り巡らされ、腰壁から上は鮮やかなエメラルドグリーン。中央には大きな木製テーブルが談話室の主のように鎮座し、その周りには会ったこともないこびとたちが既に昼食を楽しんでいたのです。

「こんなにまぶしかったの?!」

窓はすべて開け放たれていました。というより、床から天井までオープンになる一風変わった可動式の壁(?)だったんです。談話室と外の木々が完全に一体になっています。鳥も仲良くささやき合っていますし、木々を蛇行して流れる小川も良い感じの眺めです。

「どうぞ、お座りください」

「ありがとう、えっと、頂きます。 ・・・ぅ〜ん、美味しい!」

おなかも空いていたけど、周りの状況も忘れて唸る自分を恥ずかしく感じてしまいました。けど、とりあえずこの賑やかでまぶしい昼食を楽しまないともったいない。魔法のようなこの状況は後で理解することにして。

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