男女平等とリーダーシップ

○日本における女性と男性の非対称な構造

・男女のマッチングにおける非対称性

平成31年度の総務省の人口推計によれば、日本の総人口の男女比は6146万:6486万、つまり女性100人に対し男性が約95人と女性の方が多い構造になっています。しかしこれは平均寿命が大幅に女性の方が長いことに依存しており、15歳~64歳の生産年齢人口で見れば、3811万:3720万と女性100人に対して男性が102人いることになります。すなわち完全に男女がマッチングしたとしても、確実に余剰人員が男性で発生する構造になっているということです。また国立社会保障・人口問題研究所によれば、2019年時点の生涯未婚率は男性で23.37%、女性で14.06%となっているとのことです。これは構造的に男性が余る以上に一部の男性が女性とマッチングする回数が多いことを示しており、以上のことから男女のマッチング市場がそもそも女性が優位な市場である一方で、一部の男性に女性が集中することから男性においてある種の格差が生じているということが言えます。

・仕事における男女の非対称性

令和元年度の厚生労働省の賃金構造基本調査によれば、どの年齢階級別賃金においても男性の平均賃金は一貫して女性よりも高く、平均的には男性の賃金を100としたとき女性の賃金はおよそ74であるとのことです。また2019年の国民生活基礎調査によれば、非正規雇用の割合も女性の方が高く、男性が22.3%であるのに対して女性は56.4%となっています。ただ学歴間での格差は大きく、学歴が低いほど女性では非正規の雇用割合が高い傾向にあり、男女間の非正規雇用割合のギャップが高卒では40.6ポイント、短大・高専で37.4ポイントと、大卒・院卒のともに12ポイントと19ポイントと比べて極めて大きい状況となっていることが分かります。
一方で東京商工リサーチによれば上場企業の役員数では女性が6%しかおらず、女性役員がゼロの会社は51.4%と過半数に上ることが分かりました。
このように一般的には女性の賃金は低く、男性と比べ待遇に劣る傾向があると言えるでしょう。

・社会的な非対称性

子供が小さい場合親権が女性優位であることは良く知られています。親権を行う子をもつ夫妻の親権者別割合は、2018年の人口動態調査によれば共同親権や子供ごとに異なる親権者となる場合を除くと、14330件:101862件で実に87.7%で母親が単独親権者となっています。単独親権の場合子供の面会を謝絶されるケースも多く、それが養育費の不払いにもつながっているのではないかともいわれております。ただ配偶者からの家庭内暴力事案は令和元年の統計で被害者の実に78.3%が女性であることから、それがこうした女性優位の単独親権となっている可能性は否定できません。
また女性においては民法で再婚禁止期間が100日と設定されており、それが男女の平等に反しているのではないかとする法律家もいます。
よく社会的な問題として取り上げられる男女間の非対称は自殺率です。警察庁によると令和元年度における自殺者数は男性が14078人、女性が6091人と実に全体のおよそ70%を男性が占めています。これと共通の要因かどうかは定かではありませんが、令和元年に出された内閣府の「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書によれば、男性の総合主観満足度は5.67であったのに対して女性は5.90と男性よりも高い水準となっていました。こうした結果は2010年の世界価値観調査でも同様の結論が出ています。
上野千鶴子氏は毎度発言で世をにぎわせていますが、彼女が平成31年度の東京大学学部入学式で取り上げた東大の女子の入学割合は平成31年度で18.1%、一方で令和元年度の短大・大学進学率は男子が53.4%、女子が58.5%となっています。これは女子の短大への進学率が高いことが寄与しており、過年度卒を入れた学部の進学率では男子が57.1%、女子が51.1%となっています。短大は男子が1%しかいないのに対して女子では8%となっています。また男子は浪人生が多いことから女子とのギャップが大きくなっていると考えられます。

○感想

男性は潜在的に異性から愛されないという構造にある。そして社会的に高い地位を占める一方で、自ら命を絶つ割合がかなり高い。一方で女性は構造的に異性から愛され幸福度も高い一方で、社会的に高い地位を望むことは難しく雇用も非正規の割合が高い。概観はこのようになると思います。
男性は潜在的に特権を持つ存在でしょうか。確かにその通りです。社会的に高い地位を占めるのは男性ばかり。これは男性が男性中心主義的な経営や政治の構造を取ってきたからです。ただ一方で自殺者の多くは男性で幸福度は低い。離婚すれば子どもと会えない可能性も高い。
女性を救済せよという男女平等は確かに正しい。ただ男性を救済せよとともに叫ばなければならない。これに対する批判もあります。横浜国立大学教授の江原由美子氏は現代ビジネスの記事で幸福度の低さは『無意識の特権意識』だと論じている。男性がもとより持っていた特権を社会構造の変化によって手放さなければならなくなったがゆえの幸福度の低さであると。しかし自殺率の高さはどうでしょうか。『無意識の特権意識』ゆえに自死を選ぶ人が女性よりも2倍以上高くなるのでしょうか。さらに同氏は男性のつらさに寄り添うことは重要だが、それよりもつらさの認識が『無意識の特権意識』からその特権を回復させる方向に向かわないようにするべきだと結論付けている。しかし構造的に異性に愛されず親権も取ることが難しい男性のつらさを解消することは『無意識の特権意識』を惹起するのでしょうか。同氏と私が食い違っているのは「男性のつらさ」の原因です。無意識の特権意識などというあやふやなものではなく、私はこの国の構造が男性を不幸にしていると思います。さらにもうひとつ言えばこの国の男性を不幸にしている原因はジェンダーロールです。男は泣いたらいけない。男は出世しなければならない。男がリードしなければならない。もちろんこうしたジェンダーロールを押し付けることに対して問題意識が向けられはじめているように感じます。しかしいまだに男性が弱音を吐くことが許されずただただ競争にさらされつづけるこの社会が、自殺率の高さも幸福度の低さも男性に強制しているのではないのでしょうか。
救済して欲しいと叫ぶ女性の中にはなぜ男性を救済しなければならないのか、と疑問に持つ人もいるでしょう。私には関係ない、男ばかりの社会を作ったのは男だから男が解決せよ、と。しかしそうは言っても男性は動かないでしょう。この社会で男性の利益を享受しているのは男性全員ではありません。男性の中の格差は激しい。利益を享受しているものは保身に走るでしょう。利益を享受していない者たちにとっては、コストばかりがかかってメリットがない。なぜ女性を救済しなければならないのかといわれるだけです。だから女性たちがこのジェンダーギャップを解消したいのなら、自らリーダーシップを取らなければならない。そうでなければ得られるのはせいぜいが与えられた男女の平等です。国会議員も会社の役員も完全に男女で半々だったら男女平等だというのはお笑い種です。そんなことはあり得ない。もしかしたら能力本位で選べば女性全員が取締役の会社もあるかもしれない。大半が女性の国会もあるかもしれない。それが本当の男女平等、いうなれば性別中立な世界です。
女性が男性にも理解を求めるならば男性もステークホルダーにしてしまえばよい。男性のつらさもまたともに解決すべき問題として俎上に載せればよいのです。ギンズバーグもエマワトソンも、称賛されるフェミニストはリーダーシップがある。それは全ての人に課題を共有し、自分のためだけではない課題に先頭を切って真摯に向き合おうとすることです。そうしなければ問題は解決されずに残り続けるからです。
この国のフェミニズムにリーダーシップはありますか?

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