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別れ話 第4話

その川の流れは、僕が住んでいた町のどの川とも違い、澄んだ深い色をして、溢れそうなくらいに豊かだった。僕が彼女を追いかけて安曇野にやってきて半年が経とうとしていた。

「私の祖父母が安曇野でニジマスの養殖をしていたの」
「ふうん。ニジマスって川魚だと思ってた。養殖魚でもあるんだね」
「そうなの。安曇野は養殖に力を入れていて、今は信州サーモンっていうのが有名らしい」
「絶品だろうね」
川沿いを歩きながら、彼女の職場である児童文学作家の記念館に向かっていた。少し先に昔の洋館のような建物が見えてきた。どうやらそこが、目的地のようだ。

彼女は、念願だった児童文学作家記念館に勤務して、今は亡きその女性作家の作品をHPやブログなどで紹介したり、イベントを開いたりしている。幼い頃、祖父母の家に遊びに来た際に記念館を訪ね、作品に夢中になり、いつかここで作品を守りたいと心に決めていたようだ。
僕はというと、わさび農園に勤めながら、ネットビジネスを始めてようやく軌道に乗って来たところだった。

二人で古民家を改築した家に住んでいた。昔ながらに土間や縁側がある古民家で、市が移住者用に格安で提供してくれている。事実婚のような形ではあるが僕の収入が不安定なことから、まだ入籍できずにいた。

今日は、児童文学記念館のイベントの日だった。僕は、客としてそのイベントに紛れ込むことにした。初めて彼女の仕事の様子を知ることになる。不思議な気持ちがした。

イベント会場は作品の世界を忠実に再現しているらしく、雪が降る街がレイアウトされていた。ファンタジーのようで、どことなく淋しい雰囲気を醸し出していた。お客は十名ちょっとといったところだろうか。観光客らしい親子連れが何組かいた。

彼女はイベントの進行をしながら、BGMを流し児童文学の朗読を始めた。スタッフは、彼女の他はベテランそうな女性が一人いるだけだった。
「或る雪の降る夜のこと、女の子は・・・・・・」すっかり朗読の世界に引き込まれてしまった。

その物語は女の子と動物が主人公なのだが、社会に対する憤りが隠されているようで、優しさと憂いが朗読の後に残った。
子供向けのようでいて、大人向けの話のようにも感じる。児童文学には、そういう二面性がある。
僕はそんなことを思いながら、彼女の二面性について考えていた。

つづく

⇧どんな話だったか気になる方はお時間のあるときに良かったらどうぞ^_^
第2話と第3話もリンクしてあります。

もうすぐnote1周年を節目に
続きを作ってみました。(
╹◡╹

最初からnoteに横書きで書くと、どうしても文章がつい詩のように短くなるので、wordで一旦縦書きに書いてから、noteに貼り付けてみました。
頭の融通がちょっと💦・・・(°▽°)