見出し画像

読書日記 No.1流浪の月


「流浪の月」 凪良ゆう

ネタバレを含みます。

2023/8/15
終戦の日に読むものとしてはもっと違う選択があっただろうと思う。
ただ、とても面白かった。
この頃はあまり本を読まないけど一気読みしてしまった。気づいたら終わっていた。

物語はファミレスから始まる。そしてファミレスで終わる。最初は関係性も全くわからない3人がただ話している描写と受け取れる。それが最後にはとても貴重なもののように思える。それが綺麗なものかはわからないが、特殊な繋がりを理解できるようになっているのが不思議な感じだった。

男女の友情は成立するか?
よくある話題であるがこの物語はそれに近しいものを論じていると感じる。
もっとフォーカスすれば、
性愛なしに恋愛は成立するか?
という議題な気がする。
この物語が出す答えはおそらくYesだが、大分特殊な前提条件が多々ある。
彼女にはトラウマがあったし
彼には問題があった。

お互いに性的な感情がない関係はあると思う。
私はそれを友情と呼びたいが、それは異性間でも成り立つのだろうか。
彼らはその関係を友情とは呼ばなかった。
お互いがお互いに縋っていた。
精神的な支柱である。という点ではパートナーに近いと思う。
なぜ精神的な支柱になっているのか?
その原因にまた違う世間的な問題があった。
世間的には加害者と被害者なのだから近づかない方が良いとされる。世間は近づかないことを強要する。それが善意だから苦しいのだ。読んでいて私も息苦しさを覚えた。

なぜ精神的な支柱になっているのか?
それは共感できるからだと思った。
2人が過ごした幸せな時間は2人が嫌った各々の家から遠ざかった瞬間だった。嫌なことを強制されないでいられる安らぎの場だった。
それを与えてくれた相手を求めてしまうのは仕方ないのかもしれない。

だから、彼女と彼がもう一度出会う前に安らぎの場が他にできたらどうだっただろうと思った。
彼女の場合、付き合った彼氏が哀れみなしで向き合ってたらどうなってただろう。
でも現代で、被害者としてネットに残ってしまったら、哀れみを向けられるに決まってる。それに納得できてしまう。そんな奇跡なんて起きないだろう。彼女がそういう聖人に出会う確率より、彼が彼女の居場所を特定する確率のがはるかに高い。
お互いに執着しているのだから。
彼女が彼を追いかける描写はもう怖かった。ストーカーじみているとかではない。側から見たらストーカーなのだ。でも彼はそれを許すし、助けてくれる。世間的には意味がわからないから、被害者である彼女を助けなければと感じてしまう。加害者から遠ざけなければならないと信じている。本人の希望に関わらず、遠ざけることが正解だと信じている。

読んでいて奇妙な気分だった。彼女の気持ちがわかるのに、私の常識的な部分がその行動を否定していた。彼女の行動原理が理解できるのに、そんなことするなと願っていた。
私の、世間の、常識とか善意とかが余計なお世話なんだと気づいた。
余計なお世話と必要な善意の境目がわからなくなった。私の善意が誰かの願いを邪魔してるかもしれない。そこに明らかな悪者はいなくて、ただ社会と個人があるだけなのに、社会的な正しさと社会的な事実と、真実は違うんだ。
でも、真実もまた個人によって変わる。

彼が彼女の唇を触るシーンがある。
そのことについて彼女は
彼の真意はわからないと言っていた。
そのことについて彼は
自分を試したと言っていた。
そのことについて世間は
性的な接触と受け取るだろう。

さて真実はどれだ。
事実としては接触があったということだけで、そこに込められた意味なんて後付けなんだろう。

読み終わって、なぜ月なんだろうと思った。
流浪の月
事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある
と彼女は言っていた。
流浪とは彷徨うことだ。
確かに彼も彼女も彷徨っていた。
でも本当の月は彷徨うことはない。
規則的に地球の周りをまわっている。
規則的な月は世間なのかもしれない。

月は彼にとって彼女、彼女にとって彼だったのだと思う。地球と月は寄り添って太陽の周りをまわっている。太陽だったらもっと神聖な感じがするけど、お互いに過度に干渉せずに一緒にいることが重要な彼らはお互いに地球と月なんだろうな。

私は夕食がアイスクリームだったことはないけれど、それを否定しないようにしたい。
今度ピザを寝ながら食べてみたい。

久々の読書に色々考えてしまった。
アイスクリームを買いに行って、黒い皿に盛り付けてみようと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?