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ボツになった原案005

こんにちは!
タイトルが005なのに本文が0004になっているのは0004を何回も書き直したからです。

結果、ボツになりましたけど(笑)

***ここから本文***

0004 蓬莱山

 大型アップデートの際に東京エリアが拡大した。

「ファースト・ヴィレッジ」と言う、冒険者専用の村が出来たのだ。
 村の中は中世ヨーロッパ風の作りで、NPCによる露店や武器屋などが立ち並び、宿屋もある。往来する馬車や建物に据え付けられた水車などが一般的で、現代の物は一切、存在しない。

 その中にひときわ大きな建物があった。
「冒険者ギルド」である。

 勿論、所長は俺。受付嬢や依頼を張り付ける掲示板、ギルド内での飲食などなどは、〈斬撃〉さんが監修してくれたので、それなりに運営も出来るようになっている。

 東京エリアからファースト・ヴィレッジに入るには、冒険者への登録の必要があり、レベルも東京エリア、冒険者と二つのレベルを持つことになった。

 また、冒険者がそのまま武器などを持って東京エリアに入ろうとすると、強制的に武器が消え一般人の姿になってしまう安全設計。
 いくら冒険者としてレベルが高くても東京エリアでのレベルが低ければ、何も出来ないという事で、冒険者は両方のレベル上げをすることになる。

 更に、負傷した場合の回復薬や魔法使いの職業が出来、死亡した場合はこのファースト・ヴィレッジに戻ってしまうシステムになった。勿論、所持金やレベルには支障がない。

 冒険内容も探索がメインのフリースタイル、攻略が目的のストーリースタイルを選ぶことが出来、それぞれ魔物やモンスターが出現するが、ストーリースタイルでのみ、クエストが発生する。

 この大型アップデートに冒険者達は大喜び!我先にとストーリースタイルを選ぶ者もいれば、慎重に探索をして行く者もいた。

 一番、悲鳴を上げていたのは〈斬撃〉さんで、パーティーを組んで欲しいと言ってくる人が後を立たなかったのだが、斬撃さん自体はソロプレーヤーなのでと断っていたらしい・・・。

 この事態を見逃さない人達がいる。

 それは東京エリアに住む、商売人だ。

 冒険者が採取してくる物や魔物を討伐した時に出るドロップアイテムを加工すれば、高く売れるのではないか?と考えたのである。
 商人たちは冒険者ギルドに顔を出しては、本来は冒険者が手にする、採取出来るものやドロップアイテム一覧の本を買い求めていた。

 東京エリアの商人に限り、冒険者たちが集めた素材を持ち帰ることが出来るようにした。その際は冒険者ギルドから買い取るという形でギルドにお金が集まるような仕組みを作った。

 中には元・鍛冶職人の人もいて、ファースト・ヴィレッジに鍛冶工房を開き、より切れる剣や魔法付与した防具などの制作や販売をするようになり、NPCだらけの村もプレイヤーが多く移住するようになった。

 しかし、一番大変な職業がある。
 
 それは「料理屋」である。

 何故ならば、冒険者エリアの物を東京エリアへの持ち出しが出来ないという事は、東京エリアにある調味料や調理器具をファースト・ヴィレッジに持って行けないということだ。

 しかしながら、この逆境に燃える料理人がいた。
 彼は人間だった頃の一流料理人であった事から、冒険者が持ち帰ってくる肉や香草を研究、最後には調味料までも作り上げる神業を成し遂げたのである。

 これに冒険者は奇声を上げて喜び、その店は大繁盛することになった。

「美味い料理には美味い酒だろう!」と、元・酒を作る職人達がやって来た。
 彼たちは、日本酒・ビール・ワインやウィスキーまでも作り上げ、ファースト・ヴィレッジは、瞬く間にJIPANGの中で夢の国「蓬莱山」と呼ばれるようになって行った。

 そんな彼たちは、口ぐちにお礼を言ってくる。
「君が運営に話をしてくれたから、俺達は充実した時間を過ごせているんだ。ありがとう。」

・・・と、いう事で俺だけ酒と食事は無料になった。オフトの皆には白い目で見られていた次期もあったが、「実際に運営に話を付けてくれたのはキンタだから、しゃぁねぇか!」と許してくれた。

・・・しかし、皆がこうも喜んでいる姿を見ると、ふと、忘れそうになることがある。

 それは元々の目的があるという事だ。
 なのに、今は冒険者達や職人、商売人の笑顔を見ているのが心地よいと思っている自分もいることに気が付いているのも事実だった。

 あまりにものファースト・ヴィレッジの反響の良さに運営サイドも驚いて、慌ててセカンド・ヴィレッジを作ることを発表、この村では少し上位レベルの武器やクエストが受けれるようになり、それに伴って、ファースト・ヴィレッジは初心者向けの村へと変更が加えられた。

 慌ててセカンド・ヴィレッジを作ったのにも関わらず、〈斬撃〉を筆頭に、攻略組は早々とクエストをクリア、今では早くサード・ヴィレッジが出来ないかと、みんながうずうずとしているらしい。

 また、セカンド・ヴィレッジには「教会」があり、ここで初のジョブチェンジが出来るらしく、暇を持て余した攻略組は様々なジョブに変わり、また最高レベルまで引き上げてを繰り返しているそうだ。

 数か月後、運営サイドはサード・ヴィレッジの解放と詳細を発表、今度はサード・ヴィレッジに到達するまでのイベントクエストがあり、よって、イベント中は探索組は行けないエリアになるという事、道中、危険なモンスターやトラップ、ダンジョンをクリアしないと次に行けない仕様との事だった。

 さすがに今回のクエストをクリアするものは、なかなか出て来ないだろうと高をくくっていた運営サイドなのだが、あっさりと破る者が出てきた。

〈斬撃〉である。

斬撃さんは、誰よりも早くクエストを攻略し、サード・ヴィレッジに到着したのだが、そこで目にしたのは、俺の顔だった。

「悟さん・・・。なんでいるの?」

「僕はギルド権限で、転移出来るんですよね。」

へなへなと地面に崩れる斬撃さんだった。


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