とあるホテルの日常⑰
「農業体験ツアー」・・・お客様に実際に農家で体験してもらうのだが、それだけでは面白くない。それぞれが収穫したものを当館に持ち込んでくれば料理長がその食材にあった料理を振る舞う、または自分で料理体験をしていただきその料理を自分で味わう・・・このプランが当たり、国内外からの予約が入るようにもなり、外国人向けの旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」に取り上げられ、外国人の方が日本人よりも、多くなった。
農家の人達は当然、外国語は話せないので、通訳の人を雇い入れた。
そんな忙しい毎日を過ごしていると、
1本の電話が鳴る。本社からだ。
電話口の向こうは、私の知り合いであり、人事部のひとだった。
「よう、元気か!噂は聞いてるよ。スゴイなお前!」
「そんな事はない。皆のおかげだよ。」
「相変わらずだな、お前は。」
「今日、電話したのは、お前を茶化す為ではないんだ。」
「と、言うと?」
「陽光ホテルのことさ。」
「どうかしたのか?」
「今、陽光ホテルがピンチでな、稼働率も酷いもんだぞ。」
「その上でだな…支配人の高橋とエリアマネージャーが、利益のピンハネしているそうだ。監査が秘密裏に動いている。」
「なんだって?」
「一応、お前の古巣だ。教ておこうと思ってな。」
「わざわざ悪いな。」
「それじゃ。」
…みんなは大丈夫だろうか…そんな心配と不安を覚えつつ、仕事に励む。
それから数日後に、佐藤支配人が倒れた。
原因は「過労」。
無理もない、赴任してから今まで休みを取らなかったのだから。緊急入院をしたが、数日で退院出来るとのことだった。
「俺も歳かな〜」
ベッドの上でつぶやいた。
…そろそろ、自分がいなくても、ホテルが回るように「副支配人」を作らなければ…。
そう考えていると、ふと、赴任したての頃を思い出した。
視察という名の旅行をしてもらった時に、ひとり真面目に色々な情報を集めていたやつがいたな…あいつなら…
そう思いながら、深い眠りについた。
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