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とあるホテルの日常⑯

「何でアンタがいるのよ!」

…常連の「女優さん」が言った。

「今は私が当ホテルの支配人ですので…」

「佐藤支配人はどこにいったのよ!」

「かなり田舎のホテルに移動になりました。」

「はぁ、何でアンタじゃなく佐藤支配人なのよ!
おかしいじゃない!」と噛みつく。

 すると、高橋は
「お客様は当ホテルには相応しくないようです。お引取りを。」

「な!?」

「わかったわよ!こんな所、2度と来るもんですか!」

 去って行こうとロビーを歩いていると、

「あの、お客様。」

 そこには、見知った顔があった。
 何故かベルボーイの格好をしている。

「あなた、以前はフロントにいなかった?」

「支配人に能無しと言われて、降格になりまして…」

「無能なのは、あの支配人じゃなくって?あなたは、有能だと思っていたのに…」

「ありがとうございます。それで、佐藤支配人は、今はこのホテルで支配人をしております。」

 差し出されたパンフレットを受け取った。

「…そう、ありがとうね。」

「私は、いつか佐藤支配人が帰って来ると信じています。だから、しがみついてでも、ここを辞めないと決めているんです。」

「そう、頑張ってね」
「女優さん」は、パンフレットをヒラヒラさせて出て行った。

 それから、1年後。

 佐藤支配人の采配により、ホテルは60%の稼働率まで持ち直した。だが、まだまだである。

「何か、決定打が欲しいんだよな〜」

 そう考えでいると、あの外国人の事を思い出していた。

…そう言えば、実際の農家などを周って農業体験していますって言ってたっけ…

 何かが頭を過ぎって、すぐに電話を取る。連絡先はJAだ。

 農業のサイクルについて、教えてもらい、農業体験が出来ないかと質問する、それは実際の農家に聞いて欲しいからだった。

 提携先農家に電話を入れる、アポを取り、また他の農家・畜産業の社長にもアポを取る。

「よし、農業体験ツアーだ!」
 佐藤は誰もいない事務所で叫んでいた。


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