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小説 本好きゆめの冒険譚 第三十八頁

「どうかしたのかの?」

「先に食べちゃってください。」

 ゼウスは両手に焼き芋を持っている。

「すまんの…」

「改めて、どうしたのかの?」
(いつ、着替えたんだろう・・・)
 さっきまで、「作業服姿」のゼウスだったが、
 いつもの衣装になっている・・・

「私、家から童話を持ってきたのですが、ここからでも、本の中に入れますか?」

「おぉ、もちろん大丈夫じゃぞ。」

「確認したい事があって…」

「何のことじゃ?」

「この、ペンと消しゴムです。」
 あの時に貰った、羽ペンと消しゴムをゼウスに見せる。

「この2つは本の中でも使えるのでしょうか?」

「それは、やったことがないからの〜」

「一緒に行って貰えませんか?」

「儂は、世界には不干渉の身なので…」

「焼き芋食べてましたよね?」

「わかった!行こうな!」

「どの本に入るんじゃ?」

「今日は、この本にします。」

「北風と太陽」。どっちが旅人のマントを脱がせるかって言う内容の噺。

 場所は何もない荒野で、登場人物も3人。
 これは、初めての実験に持って来いの噺じゃないかしら?

「では、行こう!」

「ゆめ、儂もしっかりと、届けてくれよ。」
ゼウスはゆめの肩に手を添えた。

 私は「北風と太陽」の本に左手を翳した。


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