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とあるホテルの日常⑨

私がまず気になったのが「全体的に薄暗い」と言う事。

フロントに向かうが、スタッフがいない。

事務所に入るとスタッフふたりがゲームで遊んでいる。

「あ〜、ちょっといいかい?」

その声に

「あ?何スか?」

・・・言葉遣いがなっていないな・・・指摘は後にして、

「何で、全体的に薄暗いんだい?」

「あっ、節約っスよ!電気代の節約。」

「なんで?」

「そうでもしないと、うちは潰れるって支配人が言うんスよね〜」

「そうか…それで、質問なんだけど…」

「ん?まだあるんスか?」

「君達はこのホテルに来てどれ位経つの?」

「は?3年っスよ。」

「そうか・・・うん、わかった。ありがとうね。」

ホテル玄関の方へ向かう途中・・・埃っぽいし、床が汚れている事に気付いた。

慌てて事務所に戻り

「ねぇ、もう1つだけ教えてよ!」

「何なんですか!いったい!」

「このホテルは毎日清掃してるんだよね?」

「は?するわけないっしょ?3日に1回っスよ。」

「まさか…客室も、じゃないよね…?」

「もちろん、一緒にやるッス。」

「それも、節約のため?」

「客が来ないのに清掃しても、金の無駄遣いって支配人が言ってたっス。一週間、来ない日もあるっス。」

「それは、今の支配人?」

「いえ、前の支配人ッス。」

「そうか・・・ありがとう・・・。」

ホテル玄関へ向かう。
ドアボーイがいるはずだからだ。

・・・いない。なぜ?という疑問が湧く。

駐車場を見る。落ち葉が散乱している。清掃をしていないようだ。

薄暗いホールを戻り、客室に行こうかとエレベーターのボタンを押すが、反応がない…。
2基あるエレベーターのうち、1基は電源を切っているようだ。

生きている方のエレベーターに乗り、客室へ向かう。
当然の事ながら廊下を掃除した痕跡がなく、拭き掃除もしていないのであろう、薄くホコリが見える客室のドアを開けた。

客室を見れば、本当に清掃をしたのかと思ってしまう仕上がり。
トイレがある床には、毛髪が落ちており、バスには垢の跡が見える。
ベッドメイクもめちゃくちゃで、誰かが使った後のようにシワだらけ。

「ひどいでしょ・・・。」と支配人がささやく。

「そうですね。これは、骨が折れそうだ・・・。」



「ハッハッハッ!これで、この「ドル箱」は私の物だ!」
支配人のテーブルで大げさに笑う「新・支配人」。

「良かったな!晴れて支配人だな!」
エリアマネージャーがいやらしく笑う。

「これも、エリアマネージャーのおかげです!ありがとうございます!」

「それはそうと、忘れてないだろうね・・・?」
エリアマネージャーが、ヒソヒソと声色を変えた。

「もちろん!これからは月間売上の一部をエリアマネージャーと私で分け合いますので!」

「シッ!声がデカいぞ!」
エリアマネージャーが周りを見渡す。

「・・・くれぐれも本社にバレないようにな。」

「わかってますとも!」
「新・支配人」は支配人席を外し、エリアマネージャーを見送った。


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