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キリの異世界探検( Kiri's Otherworldly Exploration)第1章 貴族編 5.社交界デビュー

 いよいよ、今日が、私とミユの社交界デビューの日だ。なんだか、緊張する。といっても、私は、陰に隠れて、ミユに前面に出て貰うつもり。

 私は、人前に出るのが、恥ずかしいから、可愛いミユに頑張って貰うことにした。今日の舞踏会も、ミユの為のものよ。本当に苦労したんだから。

 借金で、没落した貴族の養子の社交界デビューなんて、誰も、見向きもしなかったんだから。それを、これだけ、盛大に行えるように、私が、走り回ったの。

 多分、普通に案内状を出しただけなら、これだけの人がやってくることはなかったと思うわ。

 来場者の多くは、今日のお土産を期待しているの。それは、キリ商店で、最近扱っている貴族向けの商品、オルゴール。このオルゴールは、単に、音楽が聴けるだけでなく、小さな人形が、音に合わせてダンスをするという、珍しいものだ。そして、今回は、更に、1点ものとしての価値をつけるために、一つずつ、踊りや人形を変えることにした。だから、同じものは、ないというわけ。

 普通でも、高価なオルゴールが、ただで貰えるだけでも、喜ばれるのに、誰も、他の人が持っていないという特典付きなので、参加希望者は、非常に多くの人数になった。だから、選ぶほうも、大変だったわ。

 私は、執事のヒースに準備が完了しているかを尋ねた。

 「ヒース、今日の舞踏会の準備は、大丈夫?」

 「もちろんでございます。すべて、確認済みです」

 「お土産のオルゴールは、届いているかしら」

 「はい、今日の朝に、送って来ていました。既に、袋に小分けされていましたので、渡すだけです」

 「ありがとう。安心したわ」

 ヒースは、先に会場に行って、待機するらしい。私は、安心したので、1階の部屋で、休憩をすることにした。ミユは、2階で、何か、うろうろしているみたいだ。

 「ミユ様、何か、御用でしょうか?」

 侍女のカトレアが、ミユに声を掛けた。

 「今日は、私の社交界デビューの日だけど、何を準備していいのか、分からないわ」

 「分かりました。キリ様に、お聞きしてまいります」

 「だめよ、キリに言ってはだめよ」

 「でも、キリ様には、隠し事はできません」

 「仕方ないわ。それなら、キリに確認してきてね。今すぐよ」

 侍女カトレアは、急いで、部屋を出ると、キリを探しに、1階へ降りて行った。

 「キリ様、ミユ様のことで、少し、よろしいでしょうか?」

 「何か、欲しがっているの?」

 「いいえ、社交界デビューの準備で、相談をしたいようです」

 「分かったわ。すぐに行くわ」

 侍女カトレアは、ほっとした顔で、2階上がって行った。私は、転移魔法で、ミユの部屋に移動した。

 「ミユ、呼んだ?」

 「あの、侍女は、何か、言っていましたか?」

 「何も、聞いていないわ」

 「何も聞いていないの?」

 「本当よ。どうしたの?」

 「社交界デビューって、初めてで、落ち着かないの。何をしたらいいのか、さっぱり、分からないわ」

 「何言っているの。貴族の令嬢は、何もしないわ。ただ、侍女がすることを見ているだけよ」

 「キリ、本当? それでいいの」

 「そうよ。何も、心配しないで、ただ、待って居るだけでいいわ」

 「そう。なら、いいわ」

 「お茶でも、飲んで、落ち着いたら、どうかしら?」

 「キリも一緒に、お茶にしない?」

 「いいわね。飲んだら、ドレスに着替えないとね」

 「はい。侍女に任せます」

 ミユも、少し、落ち着いたようだ。侍女が運んできたお茶を一緒に飲んでから、各自の部屋に移動した。舞踏会の準備で、ドレスに着替えるためだ。

 「ミユ様、そろそろ、お着替えになさいますか?」

 「それじゃ、お願いするわ」

 ミユは、キリに言われたように、侍女がするのに任せた。数名の侍女が動き回って、ミユの着替えを手伝った。

 「ミユ様、鏡をご覧ください」

 ミユは、鏡に映った自分の姿を見た。すべて、整っていた。でも、長い髪を束ねる物が欲しくなった。

 「カトレア、髪が少し寂しいわ」

 「分かりました。何か、探してきます」

 カトレアは、急いで、キリの部屋に遣って来た。

 「キリ様、ミユ様が、髪飾りが欲しいと仰っているのですが?」

 「髪飾りね。今から買いに行ってもいいけど。そうだわ。私が何か、作るわ」

 私は、土魔法で、髪飾りを作った。ミユの長い黒髪に生える様に、白い蝶を模った物を作った。

 「カトレア、これを持っていったくれる」

 「はい、分りました」

 カトレアは、急いで、ミユの部屋に入って行った。

 「ミユ様、キリ様から、髪飾りを預かってきました」

 「綺麗ね。それで、いいわ。付けて頂戴」

 ミユは、髪飾りを付けて貰い、もう一度、鏡を除いた。

 「綺麗ね。これでいいわ」

 「それでは、舞踏会の会場にご案内します」

 ミユは、カトレアについて、会場に入って行った。既に、多くの来客が会場を埋めていた。少し遅れて、キリも会場に遣って来た。いよいよ、舞踏会の始まりね。

 私は、ミユの姿を見て、綺麗だと思った。やはり、ミユは、可愛い。

 「ミユ、綺麗よ」

 「キリも、綺麗よ」

 今日は、ミユに輝いて欲しい。それだけを願っていた。そして、可愛いミユの横顔を見ながら、満足した。

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