『良い演技』とは何か

今日は、『良い演技とは何か』という事を考えてみたいと思います。

これは極めて難しい問題です。

何故難しいかというと、定量化ができないからです。

演技は数字で測れない

僕はプロ野球を観るのが大好きなのですが、例えば野球選手というものを考えた時に「野球選手の能力」というのは必ず数値化されます。
バッターなら打率やホームラン、ピッチャーなら防御率や勝敗数、あるいはどれだけ早い球を投げるかという「球速」で測られることもあります。
最近は、よりチームへの貢献度を図る指標としてバッターなら「OPS」、ピッチャーなら「WHIP」なんていう指標も注目されてきています。

まあ、野球はスポーツの中でも極端に指標の数が多くて、野球ファンは日々色んな数字を見て楽しんでいるわけですが、野球に限らず、スポーツというのは基本的に選手の能力を数値化されることが多いように思います。
これは、個人競技であれチーム競技であれ、目的として「勝敗を決する」という事が必要だからだろうと思います。
勝敗を決するからには、やっぱり優越を目に見える形でハッキリしないといけませんからね。そのために、客観的な数字は必要です。

しかし、演技はスポーツではありません。
確かにコンテスト形式で優勝を決めたり、「主演○○賞」なんていう賞が授与されたりすることもありますが、コンテスト終わりの居酒屋では敗者が「○○が優勝なんてありえない。審査員の趣味で決めるな!」などとクダを巻いている光景はよく見ます。
つまり、表現の世界においての優勝や賞といったものは、極論「誰かの主観」の結果でしかないのです。しかし、主観というのは人それぞれ違うわけなので、必ずどこかで不満が生まれます。

演技に限らず、「表現」の世界においては良し悪しは客観的には数値化できません。
もしされたとしても、それは誰かが付けた点数だったり、審査員やお客さんが投票した結果の獲得票数だったりするわけです。
しかし、究極的に言えば誰かが「この人の演技は良かった!」と言っても、他の人は「いや全然ダメだ。」という事もあり、良し悪しというのはそれを見た誰かの「主観」を脱することはないのです。

良い演技=魅力的な演技

では、いったい「良い演技」とは何なんでしょうか。
それはつまるところ、より多くの「主観」つまりお客さん(ドラマや映画なら視聴者)を満足させる演技という事になるのだと思います。

それはずばり、「魅力的な演技」です!!

はい、もう一度言います。
「良い演技」=「魅力的な演技」
だと、僕は思います。

なんだよ長々と書いて結論はそんなことかよ、そんなの当たり前じゃねえかよと思われるかもしれませんが、でも意外とこれって、忘れられがちなんです。

何故か。

それは、多くの人が演技力を高めようとすると次のどちらかに陥ります。

  1. より、演じている「自分が」気持ちよく、楽しくなることを目指す

  2. より、「上手に」演じることを目指す。

まず、1について

「魅力的な演技」とは、あくまで「見ている人(あるいは聞いている人)」から見て魅力的であることが大事なのであって、演じ手がどう感じているのかは関係がありません。
もちろん、演じることを楽しむことで「結果的に」魅力的に映ることはありますが、最悪なのがひたすら自己陶酔の芝居を1時間も2時間も見せられるパターンです。
本人が気持ちよくなればなるほど、お客さんは早く帰りたくなります。「なんで人が勝手に気持ちよくなってるところを見せられなきゃいけないんだ」となるわけです。

あくまで、演じることの目的は自分が満足することではなく、「お客さんを満足させる」という事に持つべきです。
そのためには、お客さんから見て「魅力的である」ということは極めて重要なことです。

次に、2について

これが非常に厄介なのですが、「演技の技術」というものは確かに存在しますが、この技術の捉え方を間違えると、ひたすら細かい職人芸を磨いていくことになってしまいます。
しかし、演技は大道芸ではありません。技術を見せることが目的ではないのです。
演技とは、すごくざっくり言うと「人間を見せること」なんです。

よく、「はじめて演技をしました」みたいな人が信じられないくらい素晴らしい演技をしたりします。
それは、余計なことを考えず、ただ一生懸命セリフを言った結果、その人の本質が現れ、結果見ている人から「魅力的」に映るからなんです。

だから僕は、中途半端にキャリアを積んだ俳優の芝居を見るより、市民劇の芝居の方が楽しめたりします。

ということで、技術を向上させて上手になることは大事なことではある一方で、それが最終目的になってしまうと、気づけば1の時と同様に自己満足に陥ってしまう危険性があるのです。


さて、思ったより長い文章になってしまいましたので、一旦区切ります。

次回は、じゃあ「魅力」ってなんなんだ、という事についてもう少し考えてみたいと思います。

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