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大工、大学院に行く

 大学院で僕を受け入れてくれたゼミでは、僕が最年少でした。僕と同時にそのゼミに入った方は都内の某お寺さんの住職で、有名な俳優の葬儀などを任された方らしく、あたしゃ小石みたいに縮こまったよ。ってか、すんげ〜自慢ゴリ押しオジサンだった。


 こっちはしがない工務店の何者でもない次男坊。あれより抵抗不能なマウントはその後も経験したことがない。坊さんにマウントを取られると自己肯定感サゲサゲ。


 そんな僕がおどおどしていたせいか、声を掛けてくれて、何でも聞いてねオーラ全解放&先輩風暴風域のおば様とすぐに知り合いになったんです。取り込まれたって方が正しいかも。


 ゼミ内のハウスルールみたいなものから勉強の仕方まで、丁寧に教えてくれて非常に助かったのですが、おば様はちょいちょい僕を「ホーベン」と呼ぶんです。


 「それでは、ホーベン。一緒に頑張ろう」

 

 「ホーベン。慰労会では禁煙ですよ」


 「ホーベン。週に最低4冊は読みなさい」


 「ホーベン。隙間時間を利用しなさい」


 などなど。僕はなんのこっちゃ!? と思いつつも小粋な感じがして、この呼ばれ方を気に入ってたんだよね。


 でも、鬱病にかこつけて、僕は早々にゼミを辞めてしまったのだ・・・。


 思えば、お金になりそうもない事を研究するニッチなゼミだったので、若さだけでも価値ありと、僕の人格云々ではなく可愛がってくれていたんだろうね。


 ゼミを辞めることをメールで告げたら、おば様の返信は滅サッパリしたものでした。正に「去る者は追わず来るものは拒まず」な人だった。おば様のが余程坊さんぽいよ。


 ところで、「ホーベン」とは何だったのか。これ、当時のネットでは検索してもマジで出てこなかったから、長らく謎だったんですけど。現在ではググるとバンバン出てきます。


 「ホーベン」ってのは、熟成されていないワインのことらしいです。


 な、なんと粋な!


 ああ、おば様。こんな素敵な愛称で呼んでくれていたのですね。あなたのホーベンは今でもホーベンであり続けていますよ。ぜんっぜん熟成してない。オンリー老化。


 そのうちホーベン○○みたいに名乗ろうかな・・・マジで。


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