僕と恐怖の約30分戦争

深夜1時。無機質な家の廊下で一際異彩を放ち、彼は勇猛に歩みを進めていた。

「軍曹」

ある界隈では彼のことをそう呼ぶ。

彼の戦績を称えてそう呼ばれているそうだ。彼の戦績とは、人類の外敵を排除してきた実績のことだ。

それっぽく語ったが、今回の記事の内容を端的にいうとアシダカグモに遭遇した話だ。

普段会っている可能性が高い南の方向にお住まいの方は、

「記事にするほどかね・・・?」

とお思いだろうが、舞台は"東北"だ。

ゴキブリもほぼ見かけない"東北"なのだ。

・・・もう一度言う、"東北"なのだ。しかも"田舎”なのだ。

なぜいるんだ・・・しかも、僕の家に。


アシダカグモは通り名で「軍曹」と呼ばれ、ファンが結構いるクモだ。

理由は圧倒的な害虫殲滅力にある。噂ではゴキブリがいる家にアシダカグモが入るとゴキブリを食い尽くしたのち、その家を後にするという。

まるでヒーローである。


わかっている。苦手だからこそそういうグロイ系の虫の情報は多く仕入れてきた。アシダカグモがヒーローだということは重々承知している。

それにもう僕は普通のクモやゲジゲジあたりはもう見慣れている。

最近家の中でゲジゲジに遭遇したが、「移動時のグラデーションすげえな」と思いながら、さっと捕獲するぐらいの余裕ぶりだ。

だが、実際に軍曹にお会いした時、僕の中の時が止まった。というかアシダカグモだとはその時思っていなかった。だって"東北"だもの。ここ"雪国"だもの。

我に返り、家から出さねばとキッチンペーパー片手に捕獲を試みる。

最初はそっと掴んで外に逃がして差し上げようと思っていた。

のそのそ歩いている背後からそっとキッチンペーパーを近づける。

その瞬間見失った。

「消えた・・・?」

恐ろしくなった。彼は瞬間移動の使い手だった。

次に見つけた時、僕も渾身の素早さで彼を捕獲しようと試みた。

「なん・・・だと・・・。また消えやがった・・・?」

一瞬移動するのは見えたが、目で追えなかった。その時点で手による捕獲は諦めた。瞬間移動の使い手に生身の人間が敵うわけがない。

(補足:益虫なら放っておけば良いのでは?と思った方。うちは犬を飼っているので間違っても食べてしまったら大ごとなのだ。アシダカグモも少しは毒を持っているというのもある。家の治安を守るためにはやはり外に出す必要があるわけだ。)

自分の無力さを悟った僕は、ここで兵器の導入を試みる。

「氷結スプレー」だ。

兵器の導入とバトロワ系のゲームで鍛えたエイム力でなんとか事なきを得ることができた。


一時は安心したが、最近今まで生きてきてこの地で見ることのなかったネズミなどもよく見かけるようになったことを思い出した。

東北といえどももうこの地は安全ではない・・・。対策を講じなければ・・・。(主に防虫グッズの購入及び家の片づけ)

ひょっとしたら、やつらは今もどこかで息をひそめ、僕のことを見ているのかもしれないのだから・・・。



最後まで読んでくださった方がいたら、ありがとうございました。

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